我が国には様々な生魚料理がありますが、その中でももっとも原始的な調理法と言えるものは一体何でしょうか。
(アイキャッチ画像提供:PhotoAC)
ダイナミックな漁師料理「背越し」
生の魚を美味しく食べる方法は世界中にありますが、そのレパートリーの豊富さにおいて我が国は抜きん出ていると言えるかもしれません。仮に刺身ひとつ取ってみても、平造りや薄造り、皮をつけたまま調理する湯霜造りや焼霜造りなど様々なものがあります。
そんな我が国の生魚料理の中で、個人的にもっとも「シンプル」だと思っているものがあります。それは「背越し」。
一般的な刺身といえば、魚を3枚に下ろし、中骨や血合い骨などを取り除き、更に皮を剥いてからスライスしたものです。しかしこの背越しはなんと骨も皮もそのままにスライスして作ります。なにも知らない人が見たら、もしかすると料理と思ってくれないかもしれない見た目をしています。
骨ごと食べる利点とは
骨ごと食べて硬くないのか? というと、実際のところ少し硬いです。鱗や内臓は除去してありますが、皮はそのままなのでなかなか噛み切れず、食べにくいと感じるかもしれません。
しかし食べ慣れてくると、普通の刺身からは感じられない強い旨味や味の複雑さを感じられるようになるはずです。というのも、魚の旨味成分や脂分は骨の周りや身と皮の間に多いと言われているのです。
また刺身と違って食感が一様でないため食べ飽きにくく、美味しい魚の背越しはいくらでもポリポリと食べられます。難点としてはどうしても骨があるため、ご飯と合わせて食べるのがやや難しく、酒の肴として食べるのがおすすめです。
背越しにピッタリのサカナとは
背越しは骨も皮もそのまま食べる料理であり、更にいうと腹膜もついたままです。そのためあまり大きな魚や、骨が硬い魚で造ると食べにくくなってしまうほか、内臓に臭みがある魚で造ると臭みが気になってしまうことがあります。
一般的に背越しで食べられることが多い魚はおそらくアユです。アユは皮に清涼感があり、骨も柔らかく背越しに剥いている魚であると言えます(ただし淡水魚なので寄生虫のリスクあり)。
個人的に背越しで美味しいと感じる魚は、スズメダイやタカベといった小型の磯魚です。これらの魚は小さく、身も柔らかくて普通の刺身にするのは難しさがありますが、背越しにするとそれらの特徴が活きます。強い旨味のある身と皮目の濃厚な脂が非常に美味しく、あっという間に数十匹食べてしまいます。
<脇本 哲朗/サカナ研究所>
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