生魚料理としてはかなり特異な調理法といえる「あらい」。刺身の水洗いというちょっと危険な調理法なのに、なぜ美味しくなるのでしょうか?
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初夏にピッタリの魚料理「あらい」
日々じわりじわりと暑さが募るこの時期、必ず食べたくなる魚料理があります。それは「あらい」。
一見すると刺身のようですが、その身は白っぽく、キュッと締まっているように見えます。食感はシコシコとした感じで刺身よりも噛みごたえがあり、さっぱりとした味わいの奥からじわりと脂が染み出してきます。
あらいは様々な魚で作られます。有名なのはコイやフナといった淡水魚を使ったものですが、スズキやコチ、アイナメといった海水魚で作られるものも人気があります。
あらいの作り方
あらいを作るには、鮮度が良い魚を用意してください。
このような魚が用意できたら、活けの場合は手早く締め、素早く鱗を取って三枚に下ろし、薄めの刺身にします。これをすぐに(できれば切った端から)キンキンに冷えた氷水にとります。
すべて切り終わったら氷水の中の切身をかき混ぜ、すぐにザルに取り、水気を切ります。平らな皿の上に細かく砕いた氷を乗せ、その上に盛り付ければ完成です。
なぜ水っぽくならないの?
あらいを作る様子を見ていると「刺身を水洗いして、水っぽくなっちゃうんじゃないの!?」とびっくりさせられます。しかし実際にはそんな事はありません。
あらいは一言でいうと「冷水で筋肉中のATPを洗い流す」という調理法です。ATPとは筋肉を動かすためのエネルギーをもたらす物質で、これを水洗いすることで筋肉が急激に収縮します。そのために水っぽくなるどころか、身がギュッとしまり、歯ごたえが良くなります。
加えて余計な脂や魚臭さの原因である血なども同時に洗い流され、風味がスッキリとして食べやすくなります。結果として、刺身ではちょっと食べにくいような魚も美味しく食べることができるようになります。
現代、とくに都市部に暮らしていると、なかなか活けのままの魚をゲットするのは難しく、必然的にあらいも縁遠い料理となってしまいます。しかしその味は他には代えがたく、自分で釣ってきてでも作りたい料理です。
<脇本 哲朗/サカナ研究所>