「大き過ぎる魚は美味しくない」と、たまに言われますが、本当なのでしょうか。調べてみると、地域や調理法などによっても評価が分かれるようです。
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大き過ぎる魚を活かす取り組み
新型コロナウイルスの感染収束が見通せない中、拡大を続ける巣ごもり需要などを背景に、一般的には敬遠される「大きすぎる魚」が各地で新商品として提供され、人気を呼んでいます。
例えば「しらす」。静岡県や神奈川県などといったしらす産地では、しらす漁による漁獲のうち2割程度が、そのまま市販するのには不向きな「大きすぎるしらす」だといい、その有効利用策が模索されています。その中で、大きいしらすを使ったパスタや弁当の開発が行われ、人気を博している例があるそうです。
他にも大衆魚の「アジ」の例も、日本有数のアジの干物生産地沼津の水産加工業者が、大型のアジを使った干物づくりに成功し、注目されています。一般的にアジを干物にするときは、内臓を取って開きにした魚を利用するのですが、大アジの干物は半身にした状態で加工されます。
このことで、通常の開きよりもグリルやフライパンのスペースを活用しやすくなり、一度にたくさん焼けるようになるなどのメリットが出ました。鰭や中骨などがなく大半が可食部のため、ごみがほとんど出ないという点も人気の秘訣だといいます。(『大シラス、大アジ、大ダイ…大き過ぎて「残念な魚」が人気になった理由』時事通信社 2022.3.21)
敬遠される理由
さて、そもそもなぜ大きすぎる魚は市場で敬遠されてしまうのでしょうか。
前提として、ある程度のサイズになると成長が止まるのが一般的な陸上生物に対し、魚介類には死ぬまで成長し続ける種類がいます。そして、大きくなりすぎた「老成魚」には、若魚と比べて味が悪くなるものも。これが「大きすぎる魚は大味」といわれる理由です。
タイやヒラメなどの白身魚には、ある程度のサイズ以上に大きくなると、水っぽく身が柔らかくなってしまうものが少なくありません。このようなものが大味と言われやすい魚種でしょう。
一方、マグロやハタなどは大きくなればなるほど脂が乗り味が良くなると言われ、こういったものは大味とは言われにくい傾向があります。
アジなどの青魚は、大型になると脂のりが悪くなる傾向があるのが知られますが、これは「大きくなる→性成熟し生殖器の発達に栄養を振り分ける→結果として脂肪分に回るエネルギーが減る」といった事情もあるようです。
魚の「大味」は文化が決める?
大き過ぎる魚の味が落ちることがあるのは間違いないようですが、「大味」という言葉のニュアンスには、この事実とは少し異なるものがある、と個人的には感じます。魚が大味であるとは結局どういうことなのでしょうか。
魚の食味は様々な要素によって決まってきます。繊維の太さ、舌触りの良さであったり、肉質や脂の量などは大事なポイントです。しかしその要素がどちらに振れているときに美味しいと感じるかについては、個人差や調理法、地域によって大きく異なります。
大きなマダイやコブダイは大味だと言われますが、これは筋肉が繊維質になりすぎて刺身や寿司ネタに不向きになるためだそうです。その一方で、ポワレなど加熱料理に用いるなら非常に良い食材となり、その場合は大味であるとは言われません。
関西で好まれるハモは、京都では小ぶりで脂がなくさっぱりとしたものが好まれますが、大阪の泉南地方では逆に大ぶりで脂のりの良いものが好まれるそうです。大きなハモは京都の人にとっては「大味」といえるでしょうが、大阪ではそうではないわけです。
最終的に、魚が大味かどうかを決めるのは「文化」だといえるのかもしれませんね。
<脇本 哲朗/サカナ研究所>