我が国の魚介類ではもっとも多くの死者を出している危険な食材「フグ」。中でも猛毒があることで知られる「卵巣」が、なんと一部の地域で食用にされています。
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佐渡名物「フグ卵巣塩漬け」
新潟県の沖合に浮かぶ日本有数の大きな島「佐渡」。沖合を流れる海流と周囲の複雑な海底地形のため、様々な魚介類が水揚げされ、食用にされています。
そんな佐渡における隠れた名産品に「フグの卵巣の塩漬け」があります。これは文字通り、ゴマフグの卵巣を塩漬けにしたものです。
日本海沿岸ではほかにも石川県でもフグの卵巣を食用にしますが、そちらはぬか漬けや粕漬けにすることが多く、シンプルな塩漬けは佐渡の名産と呼んでもよいかと思います。
フグの卵巣ひとつで数人分の致死量
この「フグ卵巣の塩漬け」について、多少魚に詳しい方ならおそらく相当驚かれるのではないかと思います。というのも、フグの卵巣は基本的に猛毒だからです。
ゴマフグの卵巣の場合、研究機関における過去の調査では、1gあたり500マウスユニット(MU)以上のフグ毒テトロドトキシン(TTX)が検出されています。
1MUは1匹のマウスの致死量に相当し、だいたい1000MUで大人ひとりの致死量に当たると言われています。つまり20gほど口にすれば死んでしまうほどであり、とても食材と言えるものではないのです。
なぜ食べられるのか不明
そんな猛毒のフグ卵巣ですが、その塩漬けは短くない食用の歴史を持ちます。おそらく長い時間と何人もの犠牲の上に調理法が確立したのではないかと思います。
しかし実は、フグの卵巣の毒性が塩漬け等の加工によってなくなる理由について、まだはっきりとはわかっていないそうです。塩漬けするとTTXが数分の1になり、その後の加工でさらに減少していくことは測定によって分かっているのですが、そのメカニズムにはまだ不明点があるそうです。
そのため、現在ではフグ卵巣の加工品は製造許可を受けた業者のみが製造できることとなっており、厳密な検査をクリアしたものだけが出荷されています。
ちなみに長期間塩漬けをするため、その味は非常に塩辛く、そのまま食べるのはちょっとしんどいです。ただし旨味も非常に強く、お茶漬けやパスタの材料に使うととても美味しく食べることができます。
<脇本 哲朗/サカナ研究所>