田んぼで猛威を振るう外来生物ジャンボタニシ。その習性を利用して農薬代わりに利用する事ができる一方、積極的に利用することには強い懸念があります。
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田んぼのギャング「ジャンボタニシ」
日本人の主食を生み出す農場であり、我が国の原風景のひとつとも言える水田。いま、この水田にとって非常に大きな脅威が西から押し寄せているのをご存知でしょうか。
その脅威とはジャンボタニシ。南米原産の外来生物の巻貝で、標準和名はスクミリンゴガイという名前がつけられています。国産のタニシ類とぱっと見は似ていますが、殻の大きさの割に殻口が大きく、またサイズも子供の握りこぶしくらいになる大きな貝です。
ジャンボタニシは植物を好んで食べ、とくにイネは大好物です。泥の中から知らないうちに現れ、せっかく植えたイネを食害します。温暖な地域を好み、西南日本の被害の大きな地域では田んぼの一角が丸裸になってしまうほどで、その被害額は年々拡大しています。
生物農薬に利用できる?
そんなジャンボタニシですが、かつて「生物農薬」として注目されたこともありました。というのは、この貝の生態をうまく利用すると「除草剤」のかわりに利用することができるのです。
ジャンボタニシはイネ科の植物を好んで食べますが、とくにまだ柔らかい若葉を好みます。また乾燥に弱く、水から完全に出るのは苦手です。
そのため、田植え直後は水位を低く保ってジャンボタニシの動きを制限し、イネがある程度成長してから水位を上げていくと、イネの隙間に生えてきた小さなヒエなどの雑草類を優先的に食べます。このようにして、除草剤を使わなくとも雑草を駆除することができるのです。
専門家たちが反対する理由は
しかし、この「ジャンボタニシ農法」は現在様々な理由から「実施すべきではないもの」として強く非難されています。
最大の理由は、ジャンボタニシが「生態系被害防止外来種リスト」に登録されている危険な外来種であるから。他の外来種にも言えることですが、一度環境下に侵入すると根絶は難しく、半永久的にその被害と戦わなければなりません。
ジャンボタニシは繁殖力も強く、効果のある農薬も少なく、そして大発生すると水田が丸裸にされてしまうこともあります。「除草剤を使わずにイネが育てられる」というメリットを補って余りあるデメリットがあるのです。
またそもそも、ジャンボタニシ農法を実施するためには、1cm単位での水位の調整が必要となり、漏水しやすい土壌にある水田など根本的に向いていないところも多くあります。そういうところにジャンボタニシが入り込んでしまうと、それこそ再起不能な状況になってしまう可能性もあります。
最近、一部の営農者の間でジャンボタニシ農法に注目が集まり、実施を呼びかける声が上がりました。しかしすぐに農水省が「ジャンボタニシは危険な生物であり、ジャンボタニシ農法は推奨しない」という意見を表明しました。
現在は茨城県周辺が生息北限とされているジャンボタニシですが、温暖化が進めばやがて東北地方、北海道にまでその被害が及ぶようになる可能性はあるでしょう。それを人間の手で早めてしまうような真似は慎むべきであると筆者は思います。
<脇本 哲朗/サカナ研究所>