うまいは甘い、なんて言葉もあるくらい密接な関係がある「甘み」と「旨味」。美味しい魚介類にも甘みは欠かせませんが、その元となるものはそれぞれ異なります。
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甘海老はなぜ甘い?
我が国ではしばしば、魚介類の美味しさを表現するときに「甘みがある」という表現を用います。これはもののたとえであることもありますが、実際に甘く感じる要素を持っており、それが味の評価の高さに繋がっているものも多いです。
その代表的なものが「甘海老」。アマエビという標準和名のエビはおらず、ホッコクアカエビやホンホッコクアカエビなどいくつかのエビの総称ですが、甘海老と呼ばれるエビはいずれも生で食べるとはっきりした甘みを感じます。
この甘みは糖類や甘味料成分によるものではなく、ある種のアミノ酸によるもの。甘海老自身の消化酵素により筋肉が分解されて発生するこのアミノ酸は、水溶性かつやや粘性を帯びているのですが、これが舌の味蕾につくと甘さのように感じてしまうのだそうです。
ホタテ貝はなぜ甘い?
この甘海老と同じくらいはっきりとした甘さを感じることが多いのが、ホタテガイやカキなどの貝類です。これらはなぜ甘いのでしょうか。
ホタテガイの貝柱にはグリシンというアミノ酸が含まれています。アミノ酸の中には甘みを感じるものもありますが、このグリシンはとくに強い甘みを感じる成分として知られており、これがホタテガイの甘みのもととなっています。
一方で、旬のカキの甘さのもとになっているのは「グリコーゲン」と呼ばれる物質です。グリコーゲンは糖類の一種であり、エネルギー源として筋肉中や肝臓中に貯められます。カキを食べると元気になると言われるのは、グリコーゲンという効率の良いエネルギーを蓄えた食材だからです。
大トロはなぜ甘い?
甘いと表現されるものの中には、大トロのような「脂の乗った魚」もしばしば含まれます。なぜこれらは甘く感じるのでしょうか。
脂を甘く感じるという人は多いですが、実際のところ脂の成分中に甘みを感じるものはないそうです。ただし、脂が分解されて脂肪酸とグリセリンに変わると、その脂肪酸は味蕾を活性化させ、甘みや旨味といった望ましい味の要素を強く感じさせるようになります。
加えて苦味や酸味などを抑え込んで風味をまろやかにする力もあるそうで、これにより結果として脳が「甘みが強い」と錯覚した状態になっているのではないか、と言われています。
<脇本 哲朗/サカナ研究所>