トロと言えば、マグロやカツオなどの赤身魚の脂の乗った部位を指すのが普通ですが、中には白身魚でありながらしっかりと脂が乗り「トロ」と呼ばれているものも存在します。
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キンキの旬がきた
東日本では超のつく高級魚でありながら、西日本ではさほど流通することのない魚はいくつかありますが「キンキ」もそのひとつです。
キンキは北海道における呼び名で標準和名はキチジ。東北地方や北海道の太平洋岸で水揚げがある魚で、特に北海道では冠婚葬祭の席に欠かせない存在です。鮮度落ちが早いことからあまり流通せず、とくに生食可能なものが西日本に出回ることは殆どありません。
キンキの魅力は、全身にたっぷりと乗った脂。特に冬の個体は脂が強く、刺身にすれば断面はテカテカ、汁物にすれば表面に脂がたっぷりと浮き、まさに「白身のトロ」です。
「白身のトロ」と呼ばれる魚たち
さて、このキンキと同じように「白身のトロ」と呼ばれる魚は他にもあります。最も有名なものはおそらく「アカムツ」でしょう。
「のどぐろ」という名前でも知られるこの魚も、キンキに負けず劣らずたっぷりと脂が乗っています。皮目を炙って寿司ネタにされることが多いですが、炙ると脂がチリチリと爆ぜて本当に美味しそうです。
また、一部地域で珍重される深海魚「アブラボウズ」も、まさに白身のトロと呼ぶにふさわしいもの。あまりの脂の強さから人によっては食後にお腹がゆるくなってしまう人もいるレベルですが、脂好きの人にはたまらない味わいです。
食べられない魚
さて、そんな「白身のトロ」と呼ばれる魚の中には、とある例外があります。それに当てはまるのが「バラムツ」と「アブラソコムツ」という2つの魚。
これらの魚はきれいな白身でありながら、その体脂肪率は40%以上にもなるとされ、全身くまなく脂が乗った「トロ状態」です。しかし、これらの魚は一般的には「食べられない魚」と認識されており、しかもその販売は法律で禁止されています。
実はこの魚が持つ脂は、我々ヒトが消化することのできない「ワックスエステル」という種類の油脂なのです。そのためこの魚を食べると、その脂が消化されないまま排泄されるのでひどい下痢になったり、あるいは不随意に排出されてしまい大変なことになります。
とはいえ、静岡県など一部地域では以前より食されており、その「全身大トロ」な味わいを楽しむ人も少なくはないようです。
<脇本 哲朗/サカナ研究所>