魚という食材の最大のデメリットは「足が早い」こと。いつでも美味しい魚を食べるため、我々日本人は様々な保存技術を編み出してきました。
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「魚の旨味を保つ」水槽
北海道の企業が「魚の『活きの良さ』を長期間保つ」ための新技術を開発し、鮮魚の流通業界から熱い注目を浴びています。
この技術における最も特徴的な点は、塩分や水温、酸素量を段階的に調節した三つの水槽を用いるということ。水揚げされた魚をまずは塩分濃度と酸素量の一番多い水槽にいれ、そこから順に塩分濃度が低く酸素量の少ない水槽に魚を移し替えながら蓄養していきます。
こうすることで、魚の基礎代謝を徐々に低下させていきます。これにより、筋肉中のエネルギー源であるアデノシン三リン酸(ATP)の消耗を抑え、結果的に魚の活きの良さを保つことができるそうです。
流通の場では、いけすで暴れる魚がすぐに死んでしまい、味も大きく落ちることが知られていました。このことをもとに、魚の活性を下げることで鮮度を維持させるというアイディアが生まれたのだそうです。(『魚の鮮度長持ち 次世代水槽 新ひだかの会社導入 道内外から視察相次ぐ』北海道新聞 2022.3.13)
様々な鮮度保持技術
魚の鮮度保持が難しい理由は、
・いけすなどで暴れて弱る
・屠殺すると徐々に劣化、腐敗が始まる
などが代表的です。そのため、これらの難点を攻略するための技術が、今も色々と生み出されています。
そのひとつの例が、数年前より話題となっている「熟成魚」でしょう。これは簡単に言うと、活け締めし血抜き(ときに神経抜きも)をした魚を、冷温で保存するというもの。筋肉内のアデノシン三リン酸が旨味のアミノ酸に変わることで旨味が増えるだけでなく、生食できる期間を長く取ることができるようになります。
他には「生きている魚に針を刺し、麻痺させて暴れなくさせる」という技術もあります。暴れなくなるので、生かしたまま輸送させることが可能になり、結果として鮮度を長く保つことが可能です。
進化する魚の鮮度保持
生鮮食品であり、水分の多い食材である鮮魚は非常に鮮度落ちが早いという欠点があります。そのため冷蔵技術がなかった頃は、生かしておく以外の保存方法は限られていました。
古くは煮干しや丸干しなどの乾燥品や、塩漬け、燻製などに加工され保存されていましたが、生のものと比べると味や風味が大きく変わってしまうという難点がありました。やがてご飯とともに漬けて発酵させる「熟れ寿司」が生まれ、さらに酢漬けなど生に近い状態で保存するための技術も生まれていきました。
近代になると冷蔵、そして冷凍技術が発達し、鮮魚のまま長期間保存できるようになりました。しかしそれでも、冷凍された魚はどうしても解凍時に味が落ちてしまいます。そのため生食文化を持つ我が国においては、冷凍技術だけでは飽き足らず他の技術が探し続けられてきたのだといえるでしょう。
今後も驚くような魚の保存技術が次々と開発され、より美味しい魚が食卓に届きやすくなっていくのではないかと思います。
<脇本 哲朗/サカナ研究所>