全国各地で春先に解禁した渓流釣りは、大半の地域で禁漁期間に入った。そもそも何故渓流釣りには「禁漁期間」というものがあるのか、不思議に思ったことは無いだろうか。今回は、渓流釣りにおける「禁漁期」についてフォーカスしてみたい。
(アイキャッチ画像提供:TSURINEWSライター荻野祐樹)
禁漁期とは
まずはそもそも論として、渓流釣りにおける「禁漁とは何か」をみていこう。
採捕禁止
禁漁というのは、その名の通り「漁(採捕)をしてはいけない期間」のことを指す。これはその河川を管轄している漁協により定められている「魚介類を正しく採集するためのルール」であり、保護するための物でもある。
渓流師に馴染み深いアマゴ・ヤマメ・イワナの他、河川であればアユも規制される場所が多い。海であればアワビやイセエビ、ワカメなどが「(漁業関係者ではない)一般人は採捕禁止」として有名だ。
なぜ禁漁が必要?
渓流魚の場合、禁漁期間に入る秋(9月末~11月)は、子孫を残すための繁殖/産卵期にあたる。解りやすく言うのであれば、警戒心が高く繊細な彼らの繁殖活動を邪魔しないために必要、ということだ。
漁業的価値
渓流魚やアユ、海で言うアワビ・伊勢エビ・ワカメといった生物は、多くの人に好まれる、言わば非常に価値が高い生物たちだ。これらを漁獲する事で生計を立てている漁師の方々が数多くおられ、その方々の様々な努力により、我々の食卓に魚介類が届けられている。
仮に何のルールも設けず野放しに捕獲し続けてしまうと、生物たちの生産活動(繁殖活動)が追い付かなくなり、減る一方となってしまう。だからこそきちんとルールを設けて、ある程度の規制を行うことが大切なのだ。
我々渓流師の場合は、鑑札/遊漁券(年券/日券)という名の「漁業権」を購入する事で対応が可能だ。
遊漁券は権利を購入している(提供:TSURINEWSライター荻野祐樹)密漁は犯罪行為
大前提として、人としてのモラル・マナーがあれば破ろうという考えには及ばないはずなのだが、非常に悲しい事に、昨今は鮭の密漁などが後を絶えない。仮に露見した場合は漁業法違反で逮捕となり、非常に高額な罰金がある他、懲役刑が下されることもある。密漁は立派な犯罪行為なのだ。
安全のためでもある
そもそも考えてみてほしい。渓流魚がいるのは山奥、即ち真冬は豪雪・路面の凍結などが普通にありえる地帯。釣りをするなんてもってのほか、危険すぎるのだ。
さらに水温もべらぼうに低く、川が凍結する事すらあり、おそらく渓魚達もほぼ口を使わないと思われる。大雪が降った年は解禁日ですら厳しいのに、こんな環境で渓流釣りをしたいと思う人は……いないだろう。
解禁日ですら豪雪の事も(提供:TSURINEWSライター荻野祐樹)禁漁期に渓魚達はどうしている?
では、渓流師が近づかなくなった渓では、どのような営みが行われているのかにフォーカスしていこう。この項目を知れば、何故禁漁期が必要なのか、より深く理解できることと思う。
婚姻色が出る
秋の渓魚の体色は、やや派手な赤みを纏った物へと変わる。これは「婚姻色」とよばれるもので、同種の異性に魅力的に見られるためのアピールカラーのようなものだ。
薄っすらと婚姻色を纏った個体(提供:TSURINEWSライター荻野祐樹)体内に変化
その年の秋に繁殖予定のアマゴの腹内からは、夏頃から未成熟な卵や白子が見つかることがある。これが9月頃になると一気に大きくなり、いよいよ繁殖が近付いていることを教えてくれる。
未来へ命を繋いでもらうためにも、この時期以降は採捕しないことが望ましいので、9月20日~10月1日から禁漁となる場所が多い。
産卵
アマゴやヤマメといった渓魚はサケ科のため、所謂サケの産卵と同じような産卵活動を行っている。我々が足繁く通っている好ポイント(特に淵近くの瀬)の中のどこかが、アマゴやヤマメの産卵床/ゆりかごになっているかもしれないと考えると、実に感慨深いものだ。
鮭との違いで興味深い点として、ヤマメやアマゴは1回の産卵で死滅せず、生き残る個体がそれなりにいることも加筆しておきたい。
水が引けば産卵場所になりえる(提供:TSURINEWSライター荻野祐樹)産卵活動後
まだ水温がある程度高い時期なので、真冬に備えて餌を飽食する時期と考えられる。そして水温低下と共に環境の変化を受けにくい深場へと移動し、水底でじっとしながら、餌をほとんど食べずに春を待つ。解禁直後に痩せている個体が多いのはこのためだ。
孵化
渓魚の卵は平均水温が10度の場合、産卵からおよそ40日程度で孵化するとされている。計算上は、禁漁期真只中の真冬に孵化する事となる。そこから春先にかけて成長していき、解禁を迎える頃は3cm~5cm程度になっていると推測される。
そう、この子達が5月~7月にかけて盛んに釣れるベビーアマゴ(10cm未満)の正体だ。
こちらがベビー(提供:TSURINEWSライター荻野祐樹)翌年狙えるサイズに
アマゴを例に挙げると、孵化して1年を過ぎる頃に15cm程度となっており、この状態で禁漁期を迎える。そして順調であれば翌年の解禁前後には20cm前後のサイズになっており、釣りの対象となるサイズになる。
寿命は2年~3年程度(飼育下では稀に4年)とされ、尺サイズになるには2年~3年かかっていることになる
禁漁期は理にかなっている
纏めると、禁漁期にはあちこちで産卵活動が行われている上に、産卵後翌年に向けて餌を飽食するタイミングがある。そして深場でじっとしているのだ。
禁漁としておけば、産卵活動を守ることが出来るだけでなく、翌年に向けて栄養を蓄えようとしている個体を漁獲する事も無く、深場でじっとしている個体もそっとしておくことが出来る。実に理に適っていると言えよう。
禁漁期の釣り人の過ごし方
では我々渓流師は、禁漁期間をどのようにして過ごしていくべきなのかを紹介したい。
他の淡水釣りに興じる
「渓流釣り以外一切やらない」という方も多いだろうが、その外の釣りでお茶を濁す方も多いだろう。アユ釣りが得意な方は、渓魚よりもやや漁期が長いアユ釣りに行く事も多いかもしれない。名手である井上聡氏は、よくワカサギ釣りを楽しんでおられるようだ。
海釣りに興じる
著者の場合はアユやワカサギ釣りの知識がほぼ無く、逆に海の餌釣りを得意としている。これからの時期は専ら堤防からのカワハギ釣りを楽しんでいるのだが、繊細なアタリ、掛け合わせる、潮の流れを読むといった所に渓流釣りに近いものを感じている。
何よりカワハギは大変美味な魚なので、釣りに行く楽しみも倍増だ。また、時にタチウオ釣りやアオリイカを釣りに行く事もあるし、冬は根魚を釣りに行く事も多い。根魚を狙う場合は勿論延べ竿だ。我々渓流師は、どうあっても延べ竿を振りたいのかもしれない。
研究
水族館に足を運んで、家族サービスと言いつつ渓魚の研究に充てたり、自身の記録を見返して翌シーズンに備えるのも良いだろう。そうすれば、また翌年の解禁日が最高の物となるはずだ。
水族館で婚姻色を発見(提供:TSURINEWSライター荻野祐樹)禁漁期は思いを馳せる期間
2月半ばから3月に解禁し、約7カ月から8カ月もの期間、我々を楽しませてくれた渓流魚たち。禁漁というのは大変に寂しいものだが、これは彼らを守るための行動でもあり、来シーズン解禁日を迎えるための最高のスパイスとなる。
別の釣りに興じるもよし、研究に充てるもよし。思い思いの過ごし方で、また来年の解禁日を元気に迎えよう。その時に出会う渓魚との出会いは、きっと再び素晴らしいものになるはずだ。
<荻野祐樹/TSURINEWSライター>



