今年の夏は海であそぼうと思っている方の中には、海の危険生物が掲載されているサイトや図鑑を見て知識を学んでいる方もおられると思う。しかし、危険生物に対する警戒がいきすぎるあまり、全く危険ではない生き物が危険視されていることがある。今回はその一例である「イモガイ」と「マガキガイ」の違いについて紹介していきたい。
(アイキャッチ画像提供:PhotoAC)
マガキガイとイモガイはそっくり
イモガイといえば、海の危険生物として有名な貝である。円錐形の殻を持つ貝で、「歯舌」という毒のある槍のような機構を持ち、人を刺すことで有名。磯辺やサンゴ礁などで遭遇しやすいことから、海の危険生物としてネット記事や本で取り上げられているのを見たことのある方も少なくないはずだ。
イモガイの中でも特にアンボイナという種では死亡事故も起きており、油断のならない貝の一族ではある。
一方で、イモガイによく似ていることから、無毒であるのに警戒されている貝がいる。それがマガキガイである。一番似ている点は殻の形だろう。マガキガイはイモガイと同じく円錐状の殻を持つ。
イモガイはイモガイ科に属する一方で、マガキガイはソデボラ科である。つまり両者は全く違う種類の貝なのであるが、一見しただけでは区別がつかないほどよく似ている。間違える人が多いのも頷ける。
マガキガイとイモガイの見分け方
とても良く似ている両者だが、見分ける方法もある。
一番の見分けポイントは殻の下にあるくぼみの有無だ。マガキガイの殻には開口部の下部に「ストロンボイドノッチ」というくぼみがあり、外側にめくれあがっている。イモガイにはこのくぼみがない。
また、マガキガイにはよく発達した眼がある。上述の殻のくぼみは、この眼や触覚を外に出すためにあると考えられている。マガキガイの眼はよくみるとなかなか剽軽であり、親しみを持てるはずだ。
ちなみに直接的に見分けられるポイントではないが、イモガイが肉食性であるのに対し、マガキガイは草食性である。
マガキガイの知恵
種族が全く違うこれらの貝は、どうしてこんなにも似ているのだろうか。
その答えを示唆する説がある。生き物の世界では、毒のある種の生き物のふりをして外敵から身を守る生き物がいる。この身の守り方はベイツ擬態とよばれ、昆虫でも毒のあるスズメバチに姿を似せている全く無害なものがいたりする。
あくまで一説ではあるが、マガキガイは毒のあるイモガイに姿を似せることによって、自分の身を守っているのかもしれない。
親しまれるマガキガイ
危険性ゆえ人から忌避されやすいイモガイとは異なり、南国ではマガキガイは非常に親しまれている貝の一つである。というのも、マガキガイは食用であり、しかも美味なのである。
また、アクアリウムの世界では草食性のマガキガイは水槽に付着したコケを食べてくれる生き物として重宝されている。水族館でも、マガキガイをコケ取りのために飼育しているところは非常に多い。
このように、マガキガイはとても魅力的な生き物である。海辺でイモガイのような生き物を見かけたら、落ち着いて注意深く観察してみるのもいいかもしれない。
<宇佐見ふみしげ/サカナトライター>