近いようで遠い東阪間。人の移動は速くなりましたが、食文化についてはまだまだ小さからぬ差異があります。
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なぜ東京人はハモを食べないのか
筆者は普段東京に住んでいるのですが、仕事でしばしば関西に行きます。夏場の関西出張は暑さもあって少しつらいのですが、そんなときに食べたくなるのが「ハモ」。
関西の夏を代表する食材のひとつであるハモは、ウナギやアナゴと同じ「長物」と呼ばれるウナギ目の魚で、夏場のスタミナ食として古くから愛されています。身の味が濃いのでさっぱりした味つけで美味しく食べられ、上質のタンパク質と脂の乗った味わいは暑い季節に体が求めるものです。
そんなハモですが、食文化としてはまさに「西日本のもの」ということができます。かつては滋賀県と岐阜県の県境である関が原を境に西日本と東日本に分かれましたが、今でもハモ食文化は関ヶ原を境に東に行くとぷっつりと見られなくなります。
こんな美味しいハモをなぜ東日本では食べないのか、はっきりした理由は不明ですが「調理文化が西日本発祥であること」が大きな要因のひとつではないかと思います。
ハモは全身に細かい骨がびっしりと入っており、美味しく食べるには、包丁で細かく切れ目をいれる「骨切り」という技法が必要不可欠です。骨切りは大分県中津で生まれたと言われており、これを京都の料理人が発展させ、芸術の域にまで昇華しました。
一方で関東ではもともとハモの漁獲がそこまで多くなく、骨切りの技術も関が原を越えることがなかったために、ハモを食べるという文化そのものが発達しなかったのではないかと思われます。
ただ最近では海洋温暖化もあって関東でのハモの水揚げも増えており、今後はじわりじわりと消費量も増えていくかもしれません。
「目板」も関東では存在感なし
さて、この時期「関西では人気だけど関東では見ない魚」は他にもあります。それは「目板」。おそらく関東の人はこの字を見ても全くピンとこないのではないでしょうか。
目板とはメイタガレイというカレイの一種で、大きくても25cmほどにしかならない小型の種です。目がカエルのように飛び出し、左右の目の間に板状の突起が出ていることからこのように名付けられました。
メイタガレイも西日本での漁獲が多い一方で、東日本ではあまり水揚げがありません。仮に水揚げされても小さいために珍重されることはあまりありませんが、関西ではこの魚はちょっとした高級魚。とくに刺身が美味しいことが知られており、活魚で流通するときはヒラメよりも高くなります。
関西のマナガツオは「真魚鰹」
このような魚はまだまだあります。マナガツオなんかもそのひとつではないでしょうか。マナガツオはカツオとついていますがカツオと同じサバ科ではなく、マナガツオ科という独立したグループに属しています。
分類だけでなく見た目もカツオと全く異なるマナガツオですが、漢字を当てると「真魚鰹」だという説があります。瀬戸内海で水揚げの多いこの魚、関西の人にとっては「こっちこそが真の鰹だ!」という思いがあったかもしれません。
赤身の代表とも言えるカツオとは逆に、マナガツオは上質な白身魚のひとつ。夏のマナガツオは脂がしっかりと乗っており、噛みしめると柔らかくもジューシーな味わいが楽しめます。
<脇本 哲朗/サカナ研究所>