磯焼けの原因は猛毒ウニ? 岩礁の厄介者<ガンガゼ>は食用になるかもしれない

磯焼けの原因は猛毒ウニ? 岩礁の厄介者<ガンガゼ>は食用になるかもしれない

水温が高い地域では漁港の底を覗き込むと棘の長いウニがたくさんいます。この生物はガンガゼと呼ばれる棘皮動物で、南方を中心に広く分布する棘皮動物です。本種は特徴的な姿から水族館では人気者ですが、一方で磯焼けを引き起す原因とも言われています。

(アイキャッチ画像提供:PhotoAC)

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サカナト編集部

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ガンガゼとは

ガンガゼはガンガゼ科カンガゼ属に分類される棘皮動物。日本産のガンガゼ科はガンガゼ、アオスジガンガゼ、アラサキガンガゼ、Diadema paucispinum の4種が記録されており、本州には Diadema paucispinum を除く3種が分布しているようです。

ガンガゼ科の識別は難しく色彩が失われた標本では同定が不可能です。しかし、ガンガゼ科では生時の色彩による識別が有効であり、肛門や間歩帯の色彩により他のガンガゼ科と区別することが可能です。ウニが移動に使う管足(かんそく)が生えている部分を歩帯と呼び、その間を間歩帯と呼びます。

ちなみに、よく知られているガンガゼ Diadema setosum は房総半島以南、能登半島以南に見られる種で肛門部にオレンジのリング状の模様が見られる他、間歩帯に白点、Y字の青点が見られることにより他の日本産ガンガゼ科と区別することができるようです(参考:日本沿岸に出現するガンガゼ属 3種の見分け方)。

ガンガゼは食べられる?

南日本に広く分布するガンガゼ科ですが、ウニ類にもかかわらず食用になることが少なく釣り餌として使われることがほとんどです。これは本種の大きな特徴である長い棘に毒があるとされていることや、食味がバフンウニやムラサキウニよりも劣ることが原因と考えられます。

しかし、ガンガゼは棘に毒があるものの生殖巣には毒がないため食べることが可能です。実際、九州の一部地域では食用とされており、味わいはバフンウニやムラサキウニと比較してあっさりしているといいます。

また、愛媛県愛媛町では食用に向かないガンガゼにブロッコリーやミカンを与えると甘みが増すことに加え、えぐみが軽減することを発見しました(朝日新聞-厄介ウニ、ミカンでおいしく 愛媛・愛南町で養殖に挑戦)。

養殖の研究が進めば今後美味しいガンガゼが食卓に上る日が訪れるかもしれませんね。

磯焼けを引き起こす

ガンガゼをはじめとするウニ類は磯焼けを引き起す原因でもあります。

磯焼けの原因は海水温や食害などとされており、ウニ類の他にアイゴやイスズミなど、草食性の魚類による食害が知られているようです。

ガンガゼを含むウニ類は雑食性ですが、大きくなると昆布などの海藻を食べます。そのため、ガンガゼが増えすぎるとその場所が砂漠化してしまうのです。加えてガンガゼはバフンウニやムラサキウニと異なり食用にならないことも個体数が増加している原因の一つかもしれませんね。

ガンガゼは分布域の各地で磯焼けを引き起こしており、ガンガゼが増殖した地域ではダイバーによる駆除活動も行われています。西伊豆では増加したガンガゼの駆除を実施した結果、駆除した海域ではガンガゼの摂食圧が下がり、海藻量と海藻の種類を増やすことに成功しました。

さらに、ガンガゼを釣り餌とし有効活用したことにより、販路を確保すれば利益が得られることも判明したのです。ガンガゼは駆除を2年行わなければ再びガンガゼの密度が駆除前に戻ってしまうことから持続的な駆除が必要になります(静岡県/水産・海洋技術研究所 伊豆分場だより360号-西伊豆におけるガンガゼ駆除をめぐって)。

ガンガゼに住む生物たち

磯焼けの原因は猛毒ウニ? 岩礁の厄介者<ガンガゼ>は食用になるかもしれないハシナガウバウオ(提供:PhotoAC)

ガンガゼは厄介者として扱われることが多い一方、小さな生物たちの隠れ家として重要な役割を果たしているようです。

例えばガンガゼカクレエビという小型のエビはガンガゼとそっくりの体色と細い体を持ち、ガンガゼの棘に擬態して外敵から身を守ります。ウバウオ科のハシナガウバウオもガンガゼと似た色彩を持ち、ガンガゼカクレエビと同様にガンガゼを隠れ家として利用していると考えらています。さらにハシナガウバウオはガンガゼの管足を食べることもあるそうです。

マジマクロイシモチはテンジクダイ科の小型種で、ガンガゼ科などの長い棘を持つウニと共生する魚。岩礁帯では1個体のガンガゼに何個体ものマジマクロイシモチが住む様子が観察されています。

危ない厄介者のイメージの強いガンガゼですが、一部地域では食用とされている他、小さな生物によっては良い隠れ家にもなっているのでした。しかし、磯焼けの原因であることには変わりはないため、地域によっては今後もバランスを取りながらの駆除が望まれます。

(サカナト編集部)