サクラエビ漁を見学してきた
先日、サクラエビ漁を見学させていただくため、駿河湾に臨む由比漁港へといってまいりました。由比漁港は現状全国で3箇所しかない、商業的にサクラエビが水揚げされる漁港です。春と秋の漁期の間、船が出せる日はほぼ毎日、漁が行われています。
サクラエビ漁は特殊なタイプの二艘引き網で行われます。夜間、餌を追いかけて水深数十mまで浮上してきたサクラエビの群れの後ろに網を下ろし、二艘の船を並べ、タイミングを合わせて網を引きます。
網が船べりまで寄ってきたら、片方の船に積まれたホースを袋状になった網の中へ入れ、海水ごとサクラエビを吸い取ります。それをコンテナに積み分け、陸上げしてそのまま競りにかけていきます。
なぜ駿河湾でサクラエビがとれるのか
サクラエビの漁業許可が出されているのは駿河湾だけです。サクラエビそのものは全国の深海に生息しているのですが、一体なぜ駿河湾でのみ漁業が行われているのでしょうか。
サクラエビは餌となるプランクトンを追いかけ、夜の間浅いところに浮上します。このプランクトンは、駿河湾に流入する富士川や大井川などの大河の水が栄養塩をもたらすことで増殖します。
加えて駿河湾は岸近くに深海が迫り、サクラエビが浮上しやすい環境にあります。そのため上記の大河の河口すぐ沖が素晴らしいサクラエビ漁場となっているのです。
サクラエビ漁の徹底した資源管理
駿河湾を代表する水産物であるサクラエビは、全国に出荷されるだけでなく、この地域で最も重要な観光資源でもあります。しかしそんなサクラエビが不漁となり、地域に大きなダメージが及んだことも過去にはありました。
とくにひどかったのは2018年から2021年にかけてで、歴史的な不漁と呼ばれ、史上初の休漁処置を行ったり、漁期を短くするなどの対策が取られました。駿河湾深海部の水温上昇や富士川流域の企業による環境汚染などが不漁の原因と目されましたがはっきりしたことはわからず、先行きの見えない中で「サクラエビはもう採れなくなってしまうのではないか」ということも囁かれました。
しかしその中でも資源量の回復を信じ、自主休漁や産卵数調査、親エビの数の調査などが続けられました。その甲斐あって2021年の秋漁から徐々に漁獲が回復し、ここ2年ほどは比較的安定した水揚げが戻ってきています。
現在でも、資源量を守るために日々細かく水揚げ量のチェックが行われており、獲りすぎないように出漁する船の数も厳しく制限されています。出漁できなくなってしまった船にも売上が入るよう、漁獲されたサクラエビはすべてプールされ、合計の売上が各線に分配されるというルールも整えられています。
美しい「駿河湾の宝石」は、漁に関わる人々のたゆまぬ努力によってまた我々の口に入るようになったのです。
<脇本 哲朗/サカナ研究所>