ある程度魚に詳しい人ならみな知っていた「魚類分類学の常識」がいま、ちょっと意外なものになっているのをご存知でしょうか。
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「大所帯なグループ」のサカナたち
釣り人や鮮魚流通に関わる人ならば誰でも知っている「魚の分類における常識ネタ」があります。
有名どころでは「スズキの一族(スズキ目)はめちゃくちゃ多い」「カワハギはフグの仲間(フグ目)なのに無毒」「イワシはニシンの仲間(ニシン目)」などでしょうか。
スズキ目、フグ目、ニシン目のほかにもウナギ目、タラ目、サケ目などが比較的知名度の高いグループとして知られており、ある程度魚に詳しい人ならこれらのグループを基準に魚について考えるのではないでしょうか。
最近の図鑑には「カサゴ目」がない?
しかし、これは魚に限りませんが、昨今の生物分類学の進歩はまさに日進月歩といった状況。数日前まで「分類の常識」であったものが、ある日突然そうではなくなった、という例が多発しています。
その最たる例のひとつといえるのが「カサゴ目」の消滅です。
カサゴ目はかつてスズキ目の次に巨大なのではないかとも言われたグループで、代表種であるカサゴやメバルといった根魚たち、マゴチやホウボウのような砂浜のフィッシュイーターたち、アイナメやカジカといった北の魚たちまで本当に多様な魚を含んでいました。
しかし、彼らを繋いでいたのは「眼下骨棚」と呼ばれる、目の下の骨が後方に向けて伸びているという特徴ただひとつのみ。そして研究が進む中で近年「眼下骨棚は、いくつかの異なるグループの魚たちが進化の中でたまたま共通して得た特徴に過ぎず、分類の基準とするのは不十分」という意見が大きくなってきており、その結果、カサゴ目という分類を廃する方向性になりつつあるのです。
なおこれまでカサゴ目だった魚たちはスズキ目に吸収され「カサゴ亜目」「カジカ亜目」などのひとつ下のレベルで別々に再分類される形になるようです。
「アジ目」がメジャーになるかも?
巨大な目がなくなる一方で、新たに大きな目ができそうな気配もあります。それは「アジ目」。大衆魚の代表であるアジを筆頭とするグループなのですが、これまではスズキ目アジ科に分類されてきました。
しかし近年の研究の結果、シイラやエビスシイラを含むシイラ科、コバンザメのいるコバンザメ科、南日本で養殖が行われるスギを含むスギ科といった小さな科においてアジ科との近縁性を認める説が提示され、これらをすべて含んだ「アジ目」を独立再分類すべきではないかという意見が出ているのです。
これらの小さな科はともかくとして、アジ科はアジの仲間のマアジ、ムロアジ、シマアジ、ヒラアジ類の他にも、ブリ、ヒラマサ、カンパチなど非常に沢山の魚が含まれる巨大な科です。もしアジ目が生まれることがあれば、アジ科のいくつかの魚たちは別の科に再分類されることもあるかもしれません。
<脇本 哲朗/サカナ研究所>