魚の中には「そっくりさん」「じゃないほう」と言われがちなものがいくつかありますが、今回ご紹介するカガミダイもそのひとつです。
(アイキャッチ画像提供:PhotoAC)
古代の宝具にそっくりな魚とは
突然ですが、三種の神器といえばなんでしょうか? 各ジャンルに当てはまるものがたくさんあるとは思いますが、本家は天皇家が代々受け継いでいると言われる「草薙の剣」「八尺瓊勾玉」「八咫鏡」の3つを指します。
この八咫鏡のように、古代日本における鏡は、青銅などの金属で作られた円盤状の板の平らな面を、丁寧に磨きピカピカにしたものでした。そしてこの「古代の鏡」になんとなく似ている魚が存在します。
その魚とはカガミダイ。円形に近いひし形の体型に、新鮮であれば美しく銀色に光る魚体はまさに古代の鏡。生きている個体は本当に顔が映るほどにピカピカです。
マトウダイとの混同にご注意
そんなカガミダイですが、ある程度魚に明るい人なら「あれ、この魚、あいつに似てない……?」と思うかもしれません。そのあいつとはマトウダイ。
マトウダイはその馬面や、体側に的のような黒い点があることが名前の由来だとされていますが、色合いはともかくシルエットはカガミダイに非常にそっくり。というよりもカガミダイがマトウダイ科に含まれているので「カガミダイはマトウダイによく似ている」というのが正しいです。
マトウダイはムニエルの材料としてフレンチではよく知られた存在であり、日本でも比較的しっかりとした値のつく魚です。知名度も遥かに上なため、カガミダイを見ても「なんだかマトウダイによく似てる変な魚」程度に思われてしまうこともあるようです。
その評価は「本家」より上?
知名度が低いことや、マトウダイよりもやや深いところにいるため、底引き網漁で他の魚達と十把一絡げに漁獲されることなどから、カガミダイの味の評価はマトウダイよりもずいぶん低くなっています。マトウダイは一匹ずつ活け締めにして売っているけど、カガミダイは干物にして5枚セットで販売している、みたいなお店も多いです。
しかし、一部の魚ツウの間では「大きいカガミダイはマトウダイよりも美味い」という評価があります。筆者も先日、60cm近い大型の個体をスーパーで見かけて購入してみたのですが、捌いてみてびっくりしました。マトウダイでは見たことのないほどの脂が、中骨の周りや腹身にしっかりと乗っていたのです。
味も水っぽさなどは皆無でよく締まっており、もちろんマトウダイで売りとなる肝(肝臓)もしっかりと大きく、加熱するとほろりとほどける身は非常にジューシー。まさに非の打ち所がない味わいといっても過言ではありませんでした。
このサイズでも評価は高いということもなく、一回り小さいマトウダイと同じくらいの価格で売られており大変お買い得です。皆様ももし鮮度の良いものを見かけたら、多少大きくても購入してみることをおすすめします。
<脇本 哲朗/サカナ研究所>