魚の中には、外見的な特徴に由来した名前がつけられているものがあります。「顎無し」はそのひとつです。
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「アゴナシ」
魚の中には、その外見における特徴的な部分を捉えて名付けられたものがしばしばあります。狐のような尖った顔をした「キツネダイ」、目が金色に輝く「キンメダイ」などはその代表的なものです。
そのような魚名の中で、ちょっとユニークかつかわいそうなものが「アゴナシ」。様々な理由で顎がないように見えるためにこのように名付けられたのですが、実はこの通称(地方名)をもつ魚はいくつかいます。
代表的なものはイボダイでしょう。関東地方ではそこまでメジャーな食用魚ではないにも関わらず、関東地方の呼び名であったイボダイが標準和名になってしまったことへの反発があるのか、流通の世界では実に様々な名前で呼ばれます。
アゴナシと呼ばれるのは、下顎が薄く、閉じるとまるで下顎がないように見えてしまうから。主に千葉県銚子周辺でこのように呼ばれているようです。
ないはずの顎に髭が生えている「アゴナシ」
下顎が薄いためにアゴナシという地方名をもつ魚はいくつかありますが、ちょっと面白いのはギンメダイ。彼らは確かに一見すると顎がないように見えますが、そのくせやたらと長いあごひげが生えているのです。
ギンメダイはキンメダイと名前こそ似ていますが、見た目は全く異なる魚です。キンメダイのようなカッコいい鯛型ではなく、ぬるっとして口が小さいシルエットをしており、アゴナシという名前がつけられてしまうのもやむを得ないかもしれません。
ちなみにこの見事な髭は威厳をもたらすために生えているのではなく、これを使って砂の中にある餌を探しているのではないかと言われています。
無いんじゃなくて隠してる「アゴナシ」
これらの2種とはちょっと趣の異なるアゴナシがいます。それはクロサギ。
クロサギは砂地を好む魚で、シロギス釣りのゲストとしてしばしば顔を出します。釣れ上がったときは一見すると小型のクロダイのように見えますが、手元に寄せてみるとすぐに違うことがわかるでしょう。なぜなら彼らの口は、前方に大きく突き出すことができるから。
おそらく彼らは、海底から顔を出すゴカイなどの餌を見つけ次第近寄り、口を突き出して一気に吸い込んでしまうのでしょう。口(吻)を折りたたんでいるときは下顎が上の方に向かって折れており、まるで下顎がないように見えるのでアゴナシと呼ばれているようです。
<脇本 哲朗/サカナ研究所>