年々増加傾向にある魚介類の密漁事案。対策のため、現在は以前と比べてより重い刑罰が科されるようになっています。
(アイキャッチ画像提供:PhotoAC)
アワビ密漁犯に50万円の罰金
8月中旬、岩手県釜石市内の海で「アワビ」を密漁したとして、20代の男性が岩手県警に逮捕されるという事件がありました。
容疑者はアワビを漁獲する権利を持っておらず、また漁協の組合員でないのにも関わらず市内の海岸でアワビ102個を密漁したとして、漁業法違反と岩手県漁業調整規則違反の罪に問われました。
男性は9月初頭に釜石簡裁に略式起訴され、罰金50万円の略式命令が下されたそうです。
これは「軽い方」
密漁の罪で罰金50万円、と聞くと「密漁ってそんなに刑が重いのか」と驚く人も、もしかしたらいるかもしれません。しかし個人的には「むしろ軽すぎるのでは」と思えます。
というのもまず、アワビはサイズや種類にもよりますが、市販価格はひとつ数千円するのが普通です。最も高価であるクロアワビなら、大きいものでは1万円を超えます。市場価値に加え、稚貝放流などにかかっている費用を踏まえると、漁協の損害額は50万円以上になる可能性もあります。
さらには、アワビは「特定水産動植物」という魚介に指定されているということもあります。特定水産動植物の密漁における最大の罰則は3000万円の罰金、もしくは3年以下の懲役またはその両方と規定されており、このことを踏まえると50万円という罰金額はとても安いといえるでしょう。
なぜそんなに罪が重いの?
この「特定水産動植物」に指定されているのは、現状ではアワビ、ナマコ、シラスウナギ(ウナギの稚魚)です。
アワビ、ナマコは乾物としておもに中国などで高く取引されています。またシラスウナギはウナギの養殖に必要不可欠で常に高い需要があり、加えて近年の不漁により高価格となっています。そのためこれらの水産動物は反社会的勢力による違法取引が行われ、その資金源となっているといわれています。このような事情により、一般的な魚介類の密漁よりも罪が重くなっているのです。
今回逮捕された男性については「組織的な密漁に与するものではなかった」と判断され、このように”軽い”処罰となったのかもしれません。
とはいえ一般的な個人にとってはまったく馬鹿にならない高価な罰金であり、もし仮に倫理的な部分を全く無視したとしても、やはり密漁は割に合わない犯罪であるといえるでしょう。
<脇本 哲朗/サカナ研究所>