陸上植物の果実である柑橘と、水中に住むサカナたち。自然環境では出会うことのない彼らですが、養殖業界では一般的な組み合わせとなりつつあります。
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広島で「レモンアユ」が登場
広島県広島市を貫流する一級河川・太田川。中国地方を代表する大河であるこの川の流域では、代表的な淡水魚であるアユの養殖が盛んに行われています。
そんな太田川では、ちょっと変わったアユが今生産されています。それは太田川漁協が誇る特産ブランドアユ「レモンアユ」。このアユはその名の通り、広島県の名産でもあるレモンのエキスを染み込ませたエサで養殖されています。
レモンアユは通常のアユに比べて身の青みが強く、爽やかな香りと風味を持つのが特長です。
柑橘で育てられる魚
このレモンアユのように、柑橘類を養殖魚の餌に使用する例は実は少なくありません。
例えば徳島県では、特産のスダチの果汁を混ぜた餌で養殖する「すだち鮎」というブランドがあります。アユ本来のスイカのような香りに加えて柑橘の爽やかな香りがあり、臭みがなく美味しいといわれています。
アユはもともと草食魚なので、柑橘の餌で育てると聞いてもまだ理解しやすいのですが、肉食魚であるブリやカンパチ、ヒラメなどの養殖魚にも柑橘で育てられるものがあります。鹿児島県でユズを混ぜた飼料で養殖されているブランドブリ「柚子鰤王」を元祖に、愛媛のみかんブリ、大分のかぼすヒラメなど、いまでは全国各地にこのような「柑橘魚」ブランドがあります。
これらの魚は柑橘のエキスを染み込ませた飼料や、皮などの廃棄物を刻んで混ぜた飼料で養殖されています。
柑橘を食べさせる理由
柑橘には、抗酸化成分として名高いポリフェノールが多量に含まれています。そのためこれを摂取させると、切り身や加工品にした際の魚の身の酸化スピードが穏やかになり、色褪せや風味の劣化を抑えることができます。
これに加え、柑橘の果皮に多く含まれるリモネンなどの香油成分が身に爽やかな香りをもたらし、魚臭さを抑えてくれるという副産物もあります。
なお、ポリフェノールや香油成分が含まれる作物であれば同様の効果が得られるため、柑橘のみならずブドウや茶を飼料に混ぜて育てる養殖魚ブランドも、各地で開発されています。
<脇本 哲朗/サカナ研究所>