「浮き魚礁」とも呼ばれるパヤオ。南洋の漁業に欠かせない存在ですが、いったいどんなものなのでしょうか。
(アイキャッチ画像提供:PhotoAC)
沖縄で「パヤオ」のイベントが開催
沖縄県宮古島市にある伊良部島の佐良浜漁港で8月11日に「パヤオの日」まつりというイベントが開催されました。
このイベントは、漁業に欠かせない「パヤオ」の秩序ある利用推進と、パヤオで漁獲された魚の消費拡大を目的として毎年行われているもので、今年で14回目の開催となります。
イベントではカツオ一本釣り体験や魚の掴み取り、マグロの解体ショーなどといった催しが行われ、家族連れなどでにぎわったそうです。また、パヤオで獲れたマグロの刺身が来場者に振る舞われ、好評を博したとのことです。
パヤオは「浮き魚礁」
パヤオとはフィリピンの言葉で「筏」を意味します。日本語では浮き魚礁とも呼ばれており、まさに筏のように浮いて漂うタイプの魚礁です。カツオやマグロ、シイラといった回遊魚が流木に集まる習性を利用した漁具の一種であり、現代使われているものは海面に浮かべるブイのような見た目をしています。
古くから用いられている一方で、なぜ回遊魚がパヤオに集まるのかははっきりしていないといいます。餌となる小魚が浮遊物に集まるからという説や、回遊魚が浮遊物の陰に隠れるからといった説がありますが、いずれも立証はされていません。
ときに一つのパヤオに数トンのカツオ・マグロ類が集まることもあるといい、魚礁としての効果は絶大です。中には遠く離れたパヤオの間を渡り鳥のように移動する個体もいるそうです。
南の島の漁業の「救世主」
そんなパヤオの「イベント」が開催されているのはいったいなぜなのでしょうか。それはパヤオがまさに、沖縄での漁業において欠かせない存在だからです。
沖縄ではかつて、沿岸部のマングローブ域やサンゴ礁の浅瀬における、ハタ類やフエダイ類などの底生魚の漁業が主体でした。しかしそういった魚たちは乱獲に弱く、また沿岸環境が開発などによって破壊されてしまったことから漁獲量が減り、沖縄の漁業はピンチに陥りました。
そこで導入されたのがパヤオ漁業。これは漁獲対象魚が底生魚から浮遊性回遊魚に切り替えるということにもなるのですが、回遊魚は底生魚と比べて成長が早く、資源量も安定しています。この結果再び漁獲量が増え、漁業危機を脱することができたのだそうです。
パヤオ漁業の導入はサンゴ礁やマングローブ林の環境保全にもつながり、持続可能な漁業環境をもたらすことにもなりました。沖縄の漁業と海にとって、パヤオはまさに救世主的存在だったと言えるのです。
<脇本 哲朗/サカナ研究所>