夏になると各地の漁業関係者を苦しめる「赤潮」。ひとたび発生すると大きな被害をもたらすこの自然現象に。ヒトが対抗する策はあるのでしょうか。
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各地で相次ぐ赤潮被害
今年も一番暑い時期を迎えるとともに、全国各地の海で「赤潮」の発生が確認されています。
鹿児島県や熊本県では、先月より八代海で発生している赤潮による漁業被害が増大しています。広島県東部の瀬戸内海沿岸でも、先月中旬に今年初の赤潮警報が発令されました。
愛媛県宇和海沿岸でも深い湾となっている海域で赤潮が発生し、養殖業が盛んな地域ということもあって警戒が続けられています。
西南日本だけでなく、北海道の函館湾でも2021年以来となる大規模な赤潮が発生しました。前回発生時はウニなどの重要水産資源に甚大な被害が発生したため、今回も関係者は気をもんでいます。
なぜ夏に赤潮被害が相次ぐのか
赤潮の原因となるのは、珪藻、渦鞭毛藻、ラフィド藻などと呼ばれる植物プランクトンの一種です。これらの発生に適した水温はすべて6~30℃の範囲となっているのですが、特に25℃を超えると発生量が多くなることが知られています。
それに加えて、水温上昇とプランクトンの増殖速度には正の相関性があることもわかっています。したがって夏になり水温が上昇すると、赤潮原因プランクトンが発生しやすくなり、さらに増殖速度も高まるために、あっという間に赤潮につながってしまうのです。
「海底を耕す」と効果あり
赤潮が発生すると、異常増殖したプランクトンが魚のえらに詰まって呼吸がうまくできなくなってしまったり、プランクトンの酸素消費量が増えることで海水中の酸素濃度が下がることから、酸欠になることで水産動物たちは死んでしまいます。それにより、ときに大きな漁業被害がもたらされます。
そのため以前から、赤潮の発生を抑えるための防除方法が考えられてきました。現在、その一つとして注目されているのが「海底耕耘」です。
海底耕耘とは「海底の砂を、畑を耕すように掘りかえす」こと。もともとは海底表面や砂の中にある栄養塩を海中に拡散させ、プランクトンを増やすことで海が豊かになる効果を期待して行われるものです。
しかし最近の研究で、この海底耕耘に赤潮を防除する効果があることがわかってきました。
海底の表面には、赤潮を発生させるものとは別の珪藻類の芽(シスト)が高密度で分布しているのですが、海底耕耘によってこれが海中に巻き上げられることで休眠状態から目覚めます。そのようにしてあらかじめこれらの珪藻類が海中に分布している状態にしておくと、赤潮の原因になる珪藻類の発生や増殖を抑えることができるというのです。
これは赤潮が発生しそうなときに海底耕耘を実施する必要があり、タイミングが難しいという欠点があります。また海底耕耘自体、ある程度の規模で行う必要があり簡単ではありません。それでも一度発生すると重大な被害をもたらすこともある赤潮を抑え込めるなら……と期待されているそうです。
<脇本 哲朗/サカナ研究所>