一般的にはややマイナーながら、天ぷらの世界には欠かせない魚である「ネズッポ」。その一種に、「ベニテグリ」なる変な名前の、しかし「まるでエビみたいに美味しい」魚がいます。
(アイキャッチ画像提供:茸本朗)
天ぷら専用魚として愛される「ネズッポ」
皆さんは「ネズッポ」という魚をご存じでしょうか。いくつかの魚を含むグループの名前で、代表種に「ネズミゴチ」がいます。
このネズミゴチという名前を聞いてもピンとくる人は多くないかもしれませんが、関東でメゴチ、関西でテンコチとして愛される天ぷらで人気の魚と言えばわかる方もいるでしょう。
実はネズッポの仲間には、ネズミゴチのほかにもヌメリゴチ、セトヌメリ、ヨメゴチなどの種があり、ひどい悪臭があるヤリヌメリを除いていずれも食用にすることができます。刺身や煮つけなどでも美味しい魚なのですが、やはり天ぷら用として流通することが多く、天ぷらだねとしてはかなりの高級品です。
「赤いメゴチ」ベニテグリは加熱するとエビの味!?
さて、そんなネズッポの仲間に「ベニテグリ」という魚がいます。大きさはネズミゴチと同じ程度で、全長20cmほどの小魚です。
シルエットや形状もほぼ一緒なのですが、目につくのはその鮮やかな体色。ネズッポ類はネズミゴチをはじめとして地味な色合いが多いのですが、ベニテグリは鮮やかな朱色~赤色をしています。
そしてこの魚、非常に味が良いのが特徴。加熱すると身が締まり、ほかのネズッポ類がふわっとした食感になるのに対し、ベニテグリのそれは「プリッ」という擬音がふさわしいです。その赤い色合いも合わさって、まるでエビを食べているような気持ちになります。
ベニテグリってどういう意味?
このベニテグリ、気になるのはその名前の由来です。字面からは全くイメージがわきませんが、いったいどういう意味なのでしょうか。
ベニテグリを漢字で書くと「紅手繰」となります。手繰(網)とは底引き網のことで、船べりで手繰って網を揚げてくることから古くはこう呼ばれていたそうです。
浅い海の砂地の海底に多いネズッポ類は、今も昔も底引き網でよく採れる魚です。そのため地方によっては、手繰網で獲れるコチという意味で「手繰コチ」と呼ばれていました。その一種で赤いから紅手繰、というわけです。
ただし、実際にはベニテグリは水深200mほどのやや深い海で獲れる魚です。そのため、人手で網を手繰って獲るのはまず困難かと思われます。
<脇本 哲朗/サカナ研究所>