我々の食卓に欠かせない「海苔」が、実はいまピンチに陥っています。そんな海苔のピンチを救うかもと期待されているのは、あのよく知られた「高級二枚貝」です。
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日本の「海苔」がピンチ
我が国の食卓に欠かせない海苔。その海苔の原料となる海藻・ノリの、国内最大の生産地である有明海でいまとある異変が起こっています。
その異変とは「ノリの色落ち」。本来黒紫色であるノリが、見た目にも食欲のわかないくすんだ黄土色になってしまう減少です。色落ちしてしまったノリの商品価値はほぼなく、発生すると大きな問題となりますが、今年は過去最悪と言えるレベルで発生しています。
有明海に面し19年連続でノリの生産量日本一を誇る佐賀県では、2022年に種付けしたノリの収穫量が、過去10年で最低量を記録しました。この影響を受け、近年60億枚台で推移していた全国の板海苔生産量も、2022年度は50億枚を割り過去最少となるおそれがあるといいます。
色落ちはなぜ起こる?
ノリが色落ちしてしまう原因は「ノリの栄養不足」。海藻であるノリは他の植物と同じように、窒素やリンなどを栄養として育つのですが、海水中におけるこれらの成分が足りなくなってしまうと成長不良となり、色落ちが起こります。
今回、有明海でノリの栄養が足りなくなってしまった理由は「雨不足」と「赤潮」にあると見られています。雨が不足すると河川からの水の流入が減り、結果として上記栄養素の流入量も減ってしまいます。
またそれに加え、冷涼な河川水の流入が減ると海水の温度が上がりやすくなり、プランクトンが発生しやすい環境となってしまい、プランクトンの異常発生である赤潮が発生します。このプランクトンがノリの栄養になるはずだった窒素やリンを奪ってしまい、色落ちがさらに発生しやすくなってしまうのです。
ノリのピンチを救うのはカキ
このような状況の中、佐賀県が解決策として検討したのはなんとあの高級食材・カキ(牡蠣)でした。県ではカキの養殖業者からカキを買付け、ノリ養殖業者に配布しています。
二枚貝であるカキの主食は、プランクトンです。カキにプランクトンを食べさせることでプランクトン量を減少させ、ノリに行き渡る栄養を増やすという作戦なのです。
カキにプランクトンを食べさせてノリの色落ちを解消する試みは、これまでも同県の有明海水産振興センターが試験的に実施してきました。効果が上がり、ノリの色付きが戻ったケースもあるといいます。
佐賀県が誇る2大養殖水産物であるカキとノリが互いに助け合うというのは興味深い構図です。自然の力を活用した対策がうまくいくことを願わざるを得ません。
<脇本 哲朗/サカナ研究所>