年中美味ながら、冬にはとくに高級魚として扱われるカワハギ。養殖技術が模索されています。
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JRがカワハギを養殖?
鉄道会社が本業でありながら、設備やネットワークなどの資産を活かし、様々な魚の養殖事業を展開しているJR西日本。これまでに「刺身で食べられる陸上養殖サバ」などの特色ある養殖魚を生産し、注目を浴びています。
そんなJR西日本がこのたび、島根県の企業とともに「カワハギ」の養殖をスタートすることとなり話題となっています。島根県出雲市にある廃校となった中学校を施設として活用するそうです。
飼育用の水槽や海水のろ過循環システムをすでに設置しており、そこにカワハギの稚魚をまずは4000匹放流。生産を軌道に乗せ、年間売上1千万円を目指すといいます。(『鉄道会社がなぜ?JR西日本が廃校を活用 カワハギ陸上養殖に参入(島根・出雲市)』TSKさんいん中央テレビ 2021.1.10)
カワハギはどんな魚か
カワハギは「本カワハギ」とも呼ばれる、フグ目カワハギ科の代表種です。全身が鱗と皮膚が一体化した頑丈な皮に覆われており、調理にあたってはまずこの皮をはぐことから「皮剥」と名付けられました。なお、皮が綺麗に剥がれることが「身ぐるみ剥がされる」ことを想起させるため、バクチウチという面白い名前で呼ぶ地域もあります。
カワハギはカワハギ類の中ではさほど大きな種ではなく、全長30cmもあればかなりの大物という魚ですが、大きさの割に値段は高く、とくに活け締めものは高級魚といえます。25cmを超えるものは1尾で数千円になることも。
高価な理由は、カワハギがフグ目の魚で、フグと同様の食味を楽しめるにも関わらず、無毒で誰でも調理・提供が可能であるためです。薄造りはフグにも匹敵する味と言われ、肥大する肝は「海のフォアグラ」と呼ばれるほどに美味で知られます。
養殖需要は「肝」にあり
カワハギは各地で漁が行われており、決して水揚げが少ない魚ではありません。それなのになぜ、養殖魚として注目を浴びるのでしょうか。
カワハギは高価なだけでなく、年々その価格が上がる傾向にあります。天然の活け締めものは養殖トラフグより高価であることもしばしばです。
その一方で、カワハギはその価値の多くが「肝」にあるとも言われる魚。カワハギの肝臓は秋から冬にかけ肥大するのですが、晩秋から盛夏にかけては産卵もあって肝臓は小さく、価値が大きく下がってしまうのです。
しかし、餌だけでなく水温などの養殖環境も調整可能な陸上養殖であれば、一年中肝臓が大きいカワハギを生産することが可能になるといいます。加えて活け締めや鮮度管理も容易であり、さらに寄生虫の心配もありません。
このような理由から、カワハギの養殖需要は今後も高まっていくのではないかと見られています。
<脇本 哲朗/サカナ研究所>