カワハギが冬に『キモパン』になる3つの理由 海のフォグラの秘密に迫る

カワハギが冬に『キモパン』になる3つの理由 海のフォグラの秘密に迫る

これから旬を迎えるカワハギ。そしてカワハギと言えば「肝パン(キモパン)」。しかしよく考えるとなぜ肝は大きくなるのでしょうか。そんな疑問を解消します。

(アイキャッチ画像撮影:週刊つりニュース関東版 編集部)

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カワハギの旬

カワハギは美味しく食べれる旬が1年を通して、2回あります。

夏の旬

1回目の旬は、脂が乗って「身」が美味しい7月~8月です。カワハギは、5~8月にかけて産卵期を迎えます。そのため産卵後の体力を回復しているカワハギの身は絶妙に脂が乗っており、その上透き通っていて、弾力や歯ごたえがあります。

冬の旬

2回目の旬が、今回のテーマでもある「肝」が美味しく食べられる11月~1月頃です。『キモパン』とは、11月から1月頃の肝臓がパンパンに大きくなったカワハギを指し、『海のフォアグラ』とも呼ばれます。

カワハギが冬に『キモパン』になる3つの理由 海のフォグラの秘密に迫るパンパン過ぎて溢れ出てしまうことも(出典:PhotoAC)

身の歯ごたえや甘みを楽しみたい人は夏頃のカワハギを、肝の濃厚な味わいを楽しみたい人は冬頃のカワハギを食べるといいでしょう。

カワハギを好んで食べる人の多くは、この「肝パン」の状態を好みます。ではなぜ、カワハギの肝は大きくなるのでしょうか?

肝が大きくなる理由

カワハギの肝が大きくなる理由は3つあります。この3つ理由が重なる冬に、肝は大きくなります。

(1)運動不足による肥満体質

カワハギは、他のサカナに比べ遊泳力があまりありません。というよりも、カワハギはテリトリーを作るサカナのため、自分の縄張りからあまり出て行きません。そのため、長時間の遊泳を必要としていません。

以前『サカナの『赤身』と『白身』の違いを解説 タンパク質含有量で区別?』でも触れましたが、マグロやカツオなどの赤身魚は、常に泳いでいるため、血合筋を発達させることで摂取したエネルギー(脂肪)をドンドン燃焼させています。

反対に白身魚のカワハギは血合筋があまり発達していません。摂取したエネルギーのうち、身で消費しきれない分はドンドン肝臓に蓄えられていきます。

人間の体質で例えた場合、マグロなどはアスリート体質であるのに対し、カワハギは肥満体質と言えるでしょう。つまり肝パンというのは【超脂肪肝】と言え、海のフォアグラと呼ばれるのも納得ができます。

カワハギが冬に『キモパン』になる3つの理由 海のフォグラの秘密に迫る時期によってはスリムボディ(画像作成:週刊つりニュース関東版 編集部)

(2)産卵に向けてエネルギーを蓄積

春に産卵をするカワハギは、秋から冬にかけて産卵のためにエネルギーを蓄えるためにたくさん食べるようになります。

カワハギは可愛い見た目とは裏腹に肉食性で、自分のテリトリー内にいる小型の甲殻類や、ゴカイ、貝類、ウニなども頑丈な歯で殻を噛み砕いて食べてしまいます。中には、あの漁業に甚大な被害を与えている大型のクラゲであるエチゼンクラゲを集団で襲うことも観察されています。ちなみに砂中に生息するゴカイなどの多毛類よりも捕食しやすいクラゲを好むのだとか。

こういったテリトリー内にいるエサをたくさん食べて冬に向けてエネルギーを蓄えていきます。

(3)身に脂を貯めるのが下手

実は、カワハギだけでなく、サカナの多くは冬に旬を迎えます。これはサカナは寒さから身を守るために、体に脂肪分を蓄えていき、エネルギーの放出を少なくしようとするするためです。

水温が下がるほどにこの脂肪分は増えていきますが、カワハギは他のサカナに比べて身に脂を貯めることが苦手なため、肝臓にその分のエネルギーが蓄えられていきます。  

産卵・越冬、そしてカワハギの体質の3つの要素が重なることで、冬に肝が大きくなります。

カワハギが冬に『キモパン』になる3つの理由 海のフォグラの秘密に迫るお腹がパンパン(画像作成:週刊つりニュース関東版 編集部)

養殖のカワハギはフグの代わりになる

カワハギはフグ科に属するため、コリコリした身やその味わいは、フグに非常に似ています。フグの代用品として、カワハギが使われていることもあります。

しかしカワハギとフグを食べる上での大きな違いは、その毒性でしょう。フグの肝は猛毒で食べることが出来きません。特に産卵期のフグは、まず肝臓に栄養をたくわえ、大きく成長します。そのため必然的に、通常よりも毒性が強くなると言われています。

もしかすると、今後は命をかけずとも、フグに変わる代替品としてカワハギを楽しんでいけるようになるかも知れません。

近年では、カワハギの養殖技術が発展し、屋内養殖、そして小売店への安定供給が少しずつ可能になってきました。

高級なフグと同じくらい美味しい肝パンのカワハギを、誰もが気軽に食べられるようなる日もそう遠くない未来かもしれません。

<近藤 俊/TSURINEWS・サカナ研究所>