8月に噴火した海底火山・福徳岡ノ場から噴出した軽石が、次々と各地に漂着しており、各地で警戒が強まっています。しかし、軽石がもたらすのは「被害」や「破壊」だけではないようです。
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軽石が伊豆諸島にも到達
小笠原諸島の海底火山の噴火による軽石とみられる漂流物が、伊豆諸島各地で相次いで確認されています。
本土から数えて6番目の島である三宅島では、東側にある三池浜の海岸に、少し黄みがかった色が特徴的な軽石とみられる石が漂着しました。この軽石はとても軽く簡単に割れ、波の力で細かくくだかれると漁船のエンジンに詰まりストップさせてしまう可能性があることから、漁に出られない状況が続いているといいます。
三宅島では先月20日、5つの港に漂着する軽石を入れないようにするためのオイルフェンスが設置され、漁もストップしています。これにより、市民生活にも影響が出始めています。(『“軽石”三宅島で漁取りやめ「在庫が底を」』日テレNEWS24 2021.11.22)
今後軽石はどうなる?
小笠原諸島の海底火山「福徳岡ノ場」から噴出した軽石は、風波と黒潮に乗り、太平洋側沿岸各地に拡散しています。軽石は海を漂ううちに割れたり、こすれ合って小さくなるなどして変形していきます。
今は海面を漂っている軽石ですが、表面の気泡に海水が入りこんだり、海洋生物が付着したりして重くなると、徐々に海に沈んでいきます。しかし、どれくらいの軽石がいつごろ沈むかはその形状にもよるため、予測するのは難しいといいます。
11月下旬時点ですでに、茨城県など本土に到達しているものもあり、まだ到着していない各地でも漂着への警戒が強められています。
軽石は絶対悪ではない
一方で、この様な海底火山の噴火によって発生した軽石がもたらすのは、悪い影響ばかりではないようです。
2012年に、オーストラリア・クイーンズランド工科大学の研究チームが行った調査によれば、海底火山の噴火によって発生した軽石の漂流が、多様な海洋生物を拡散させる役割を果たしているといいます。
軽石はその成分や、物質を吸着させやすいという性質から、藻やフジツボ、サンゴなどあらゆる種類の生物の漂流を手助けし、拡散に寄与します。これによって沿岸域に様々な生物や物質がもたらされることで、とくに近年危機が叫ばれているサンゴ礁などの沿岸環境を回復させる可能性があるそうです。
今回の事象でも、大量のカワハギ類の稚魚が、軽石とともに沖縄沿岸にもたらされているというニュースもあります。単眼的には環境破壊や経済的損失と言えるかもしれませんが、大きな目で見れば「傷ついた自然が再生するために欠かせないサイクルの一つ」と言えるかもしれません。
<脇本 哲朗/サカナ研究所>