釣りをしない人には食べる機会が少ないキスだが、実はスーパーにも売られている。今回はおいしいキスの見分け方を、奈良県中央卸売市場の丸中水産株式会社勤務の著者が紹介。
(アイキャッチ画像提供:TSURINEWSライター有吉紀朗)
キス釣りのシーズン
キス釣りは八十八夜からという格言があるように、キスは初夏から盛期を迎える魚で、1年を通して狙えるもののやっぱり夏が似合う。
海水浴に行ってシュノーケリングをしていると、黒い影がスーッと動いていることがある。よく見ると砂底と同化したシロギスで、頭をやや下に向け海底スレスレを泳いでいる。波の影響で左右に魚体が振られるような浅場でも見つけたことがあるが、この保護色のおかげで気づいている人は少ないのかもしれない。
白魚のような手という誉め言葉があるが、シラウオ並みに細くて半透明な手はいまだ見たことないし、健康的な手ではない。それよりこのシロギスのほうが綺麗な、可愛らしい手の象徴のような気がする。
キスの目利き
日本にはアオギス、モトギス、ホシギス、アトクギスの5種類がいるとされている。アオギスは大分の住吉浜、ホシギスは沖縄の運天港で釣ったことはあるが、普通関西でキスと言えばシロギス。
ただしスーパーやネットなどで「解凍キス開き」として売られているものは、原産国がタイ、オーストラリア、中国、ベトナムと多岐にわたり、おそらくシロギスではない。開きになって入荷するので何キスかの同定は難しい。
と言ってスーパーで売られているキスの開きがすべてシロギスではないのかと言うとそうでもなく、愛知産とか国産のものはシロギスを開いている。小さい魚の割に細かく多い鱗など手間がかかるし、底曳き網で大量に捕獲されにくいので、本物のキス開きの価格は少々高い。
丸で1匹買う場合は、お腹が透き通っていて張りのあるものを選ぶといい。鮮度落ちが早い魚だけに、古いと上品な味が損なわれる。
料理はクセのない白身で、刺し身から天ぷら、フライ、焼き物、わん種とどんな料理にしてもおいしい。
キスだけどキスじゃない魚
キスが底曳き網で捕獲しにくいのは、その遊泳力と驚いたら砂に潜る性質のため。キスによく似た魚でニギスがいるが、似ているのはスマートな魚体だけで、味も香りも違う。ただ海底から少し上を泳ぐのはニギスも同じで、底曳き網で本命より上の層で大量に捕れる。
以前、関西の日本海側のニギスの記事を読んだが10kgで3000円ということはキロ300円。シロギスとはケタが一つ違う価格差である。ニギスも軽く素焼きにしてから煮つけにしたり、干して食べるが、シロギスの凛とした女性らしい繊細さとは比べ物にならない。
あとキスが付く魚にクラカケトラギスがいて五目釣りで交じることが多いが、キスと同じように天ぷらや一夜干しにすると、解凍キスなんかよりは断然おいしい。時折市場にも並ぶ。
釣りものとしてのキス
釣りでは投げ釣りで狙うことが多いが、ミチイトに伸びの少ないPEを使うと特にアタリの大きさにはビビる。ビックリするのを通り越して「ビビる」くらいアタリが大きい。
船やボートからでも投げ釣りの仕掛けで狙われることが多かったが、私のマイブームは胴つき仕掛けでの釣りで、五目釣りの感覚で楽しんでいる。もちろんアタリはスカッと大きいし、良型は船べりで横走りもする。
エサは青イソメや石ゴカイを使うが、セコイ私は何度か同じエサを使う。いや同じエサを使えるようにうまくアワせる。ハリを飲み込まれてもキスはハリスを引っ張れば簡単に外せるが、ボートのイケスに入れると少し泳ぎすぐにあがってしまう(死んでしまうことを魚業界用語ではあがるという)。長く泳がせ同じエサを使うにはうまくアワセなければならない。
関東のほうでは禁漁期があると聞くが、関西ではキスの禁漁というのを聞いたことがない。最近魚影が薄くなったような気がしなくもないので、関西でもぜひ設定してほしいものだ。
<有吉紀朗/TSURINEWSライター>