「鰯の頭も信心から」と言われますが、そもそもなぜ節分にイワシを戸口に飾ると「鬼を追い払うことができる」のでしょうか。
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今年の節分は2月2日
例年「2月3日の豆まきの日」として広く認識される節分。2月4日の立春の前日にあたり、冬と春の境目であるため、季節の変わり目に生じやすいとされる邪気を追い払うべく、豆まきなどの行事が行われます。
しかしなんと今年は、その節分が2月2日になるといいます。これは初めてのことではありませんが、前回はなんと明治30年。実に127年ぶりの珍事なのだそうです。
これは地球の自転が365日ちょうどではないために起こるズレなのだそうですが、例年よりも早い時期から注目されることで、節分の伝統に改めてスポットライトが当たる機運もありそうです。(『来年の節分は124年ぶり2月2日 豆まき予定にご注意』朝日新聞デジタル 2020.12.28)
節分に欠かせないイワシ
さて、そんな節分に欠かせないものといえば、大豆とイワシ。煎り大豆をまいて邪気を追い払う「豆まき」と、イワシの頭を柊に刺して玄関に掲げる「柊鰯」が古くからの風習として残っています。
関東ではあまり知られていませんが、西日本にはこの柊鰯に加え、節分にイワシを食べる「節分イワシ」という文化も残っています。イワシは栄養分が豊富なので、無病息災を祈願する意味合いも込められていたのでしょう。
イワシは初夏から秋にかけて強い脂が乗る一方で、冬の間は痩せていて脂ののりはよくありませんが、これは逆に言えばメザシなどの干物には最適ということでもあります。カラカラに干しあげたメザシを炙って燗酒と合わせれば最高ですし、生のものならつみれにして鍋の材料にすれば良い出汁が出るでしょう。
「柊鰯」はなぜ臭い?
節分の柊鰯には「柊の棘とイワシの臭さで鬼を追い払う」という意味があるといいます。しかし、これには少し違和感があるという方もいるのではないでしょうか。というのも、イワシの干物を焼いても魚の匂いはするが、鬼が嫌がるほど臭いとはとても思えないのです。これは一体どういうことなのでしょうか。
実はかつて、イワシの干物はひどい悪臭がしたのだといいます。上記の通り、脂のない冬のイワシで作った干物は美味しいのですが、「干物の旬」ではない脂の乗った時期のイワシで作った干物は脂が酸化しやすく、決して美味しいものではなかったようなのです。このようなイワシは色味が赤茶けるので「赤鰯」と呼びます。
冷蔵技術もない時代なので、腐敗を防ぐために一度きつく塩漬けし、発酵が進んだものを干し上げる事もあったと言います。いわば質の悪いアンチョビを干したようなものなので、味はともかく匂いについては、それこそ鬼も逃げるほどにかなり強烈だったでしょう。
鬼をおびき寄せる説も
ただ、地域によってはこの柊鰯は逆に「イワシの美味しそうな匂いで鬼をおびき寄せて、柊の棘に刺さらせる」という説もあるそうです。トラップみたいで鬼はかわいそうですが、現代の質の良いイワシの干物で考えれば、こちらがむしろ自然な発想にも思えてきます。
<脇本 哲朗/サカナ研究所>