誰もが知る魚料理「アジフライ」。このポピュラーな料理の「聖地」に名乗りをあげることで、地域活性化を図っている、長崎県松浦市を紹介します。
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初夏が旬の魚マアジ
青魚が美味しい季節になってきました。関東周辺の市場では、トップバッターはキビナゴ、やや遅れてイワシが美味しくなり、そして次にマアジの旬が始まります。
真夏から秋にかけて産卵期を迎えるマアジは、初夏から夏にかけて最も脂が乗り、美味しい時期。旨味のもととなるアミノ酸の含有バランスが良く、誰が食べても素直に美味しいと感じる魚です。
庶民の魚として古くから愛されており、「味が良い魚だから『アジ』と呼ぶ」という説があるほど味の良い魚と認識されてきました。漢字で書くと「鯵」ですが、これについても「味が良すぎて『参った』」ことからこの字が当てられた、なんて話もあるそうです。(『アジ』八面六臂ホームページ)
日本で一番アジが水揚げされる街・松浦
誰もに馴染み深い魚であるアジは、日本各地の漁港で水揚げされます。しかしその漁獲は意外なほどに偏在しており、太平洋側に比べると日本海側、とくに西北日本での水揚げが多く、ときに日本全体の水揚げの9割以上を占めることもあるそうです。
これは、対馬暖流が当たる長崎、佐賀、福岡沖のいわゆる「玄界灘」にアジのエサとなるプランクトンや小魚が大量に棲息しているためであり、とくに長崎県北西部にある松浦市の沖合は、日本屈指のアジ好漁場となっています。そのため、人口2万人強の小さなこの街が、アジ水揚げ量日本一を誇っています。(『アジフライの聖地宣言書』)
またそれだけではなく、松浦市には数多くの島嶼や、それによって囲われた「伊万里湾」という内湾があります。釣り人にはよく知られているのですが、実はマアジには、外洋を回遊し大きく成長する「クロアジ」と内湾に棲息し定着性の強い「キアジ」の2つのタイプがあります。松浦市は沖合でクロアジが、沿岸でキアジが獲れる環境となっており、これもまたアジの漁獲量が全国トップである理由となっているのです。
「アジフライ」で地域活性化
このようにアジの水揚げが多い松浦市では、以前より、新鮮なアジで作るアジフライがポピュラーな「地元の味」となっていました。そこで2019年に、市は「松浦アジフライ憲章」を掲げ、アジフライの聖地であることを宣言しました。
憲章では「市内や近隣地区で水揚げされたアジのみを使うこと」「ノンフローズン(一度も凍らせていないもの)もしくはワンフローズン(調理を済ませてから凍らせ、解凍せずに揚げたもの)のアジのみを使うこと」など、美味しいアジフライを提供するためのルールを規定しており、そのため市内の多くの場所で、本当に美味しいアジフライを楽しむことが可能になっています。
市内の料理店はもちろんのこと、学校やファミリーレストラン、さらには長崎県庁のレストランともコラボを展開。「鯵」の字が魚編に参であることにちなみ、毎月第3(参)金曜日を「アジフライデー」に指定し、市内小中学校の給食で振る舞うなど様々なイベントを開催し、知名度向上を図っています。(『松浦アジフライの聖地宣言書』)
周囲の過疎化や基幹交通である松浦鉄道西九州線の赤字転落などもあり、観光産業の親交や需要の掘り起こしが急務となっている松浦市。誰もが知るメニューである「アジフライ」が、この街にとっての救世主になれば、全国の過疎化に悩む漁業の街にとって福音となることは間違いありません。
<脇本 哲朗/サカナ研究所>