釣りの本など一体どれ位の釣り人が読むのだろうか。休みとなれば釣りに行くのが釣り人。大海原や山紫水明の地にこの身を委ね釣り糸を垂らす。それも至極の一時だが、雨の日は釣りの本を読み、まだ見ぬ釣り場や魚を求め空想に遊ぶのも大切な時間ではなかろうか。
鳥海書房
そこで今回ご紹介するのが、釣り好きなら知る人ぞ知る本の町神田神保町で、釣り本が豊富な古書店「鳥海書房」。
創業者の故鳥海清氏は北海道余市出身で幼少の頃より自然に親しみ磯釣りが大好きだったそうだ。上京し1958年(昭和33年)北区赤羽にお店を構え、1977年縁あって現在の神田古書センターへ移転する。
当時釣りブームもあり釣り本はよく売れ、まだまだ良書も豊富にあった時代に貴重な釣り本を集めた。
その後は生物系書籍と合わせ現在の店構えになった。今はご子息の2代目鳥海洋氏が継いでいる。
『釣本といさな文庫』
鳥海書房は古い文化の伝承者でなくてはらないという創業者の言葉通り、日本の釣り本と魚関係書資料集「釣本といさな文庫」を刊行した。
釣り文化を未来に伝える1級釣り本図書目録だろう。
裏表紙には釣本人気番付なるものが掲載されていて、西の横綱は世界最古の釣りの本「ウォルトン著・釣魚大全」、東の横綱には日本最古の釣り本「津軽采女著・何羨録」が挙げられている。
ウォルトン著『釣魚大全』
アイザック・ウォルトン著
世界最古の釣り本。1653年に英国で出版された世界の釣り人のバイブルと称される。翻訳本も多数あるので読み比べてみても面白い。その後あえて原文に挑戦するのもいい。
内容は釣師、猟師、鷹匠の会話形式で釣りの魅力を述べる。魚の種類や釣り方、料理にエサ、釣り場などの解説がなされる。釣りは自然や魚と親しみ、釣り場の風景を楽しみながら現実を忘れ、自分自身を振り返る哲学的思索であるとウォルトンは述べる。最後の言葉 study to be quiet(直訳すると静寂を学べ)はシンプルな単語にして意味深い。皆さんならどう日本語に訳すだろうか?
本との出会い
現在の2代目店主鳥海洋氏は、先代の父親の手伝いをしながらある販売会で、江戸後期に書かれた畔田翠山の水族志と出会う。日本初の水産動物誌といわれ、今のような情報が手軽にはいる時代とは違い、当時これを書いた人の執念は、いったいどのようなものだったのかを知りたくなったそうで、その後民俗、植物の分野を取り扱うようになった。
水族志は明治時代に愛書家が古書店で翠山の稿を発見し、本として出版されその偉業が現代に蘇った。古書店にはお宝が眠っている。
本に込める願い
釣りの根源には自然への畏怖があると思う。その趣味は奥深く、釣技のみならず、気象や食文化、日本各地の民俗文化などへ派生していく。
店主が最後に語った言葉が印象的だった。「釣りの本から読む人が感銘を受けた情報を切り取り、その後の釣りや人生に活かされるならとても素晴らしい事ではないでしょうか」。
姉妹店も歩いてすぐ近くにあるので、本を釣りにいくのもいかがだろう。
<麻生/TSURINEWS・関東編集部>