ドンコという魚をご存じでしょうか? かつてローカルだった魚ですが、最近では関東の魚屋でも少しずつ見られるようになってきました。この魚について紹介していきましょう。
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ドンコにはかつて2種含まれていた
ドンコという名は三陸地方の呼び名であり、正式名称はチゴダラという名前の魚です。ただし、ドンコという呼び名は三陸以外にも浸透しており、他の地域でもドンコという名で流通することがあります。現に神奈川県小田原には「スケソウ」という呼び名が存在するものの、県内ではドンコという呼び名が浸透しており、魚屋でもドンコとして売られています。
また、この魚は名前にタラと付くことからも分かるように、我々がよく知るマダラやスケトウダラと同じくタラの仲間に分類されます。
さらに、チゴダラはタラ目の中でもチゴダラ科に属し、2023年12月現在、日本にはチゴダラを含む16種のチゴダラ科の魚が有効とされています。チゴダラ科の魚は一部の種を除き中型~大型種であることから食用になることが多く、中でもチゴダラは最も流通量が多い種といえるでしょう。
チゴダラ科の魚は主に深場に生息し、中にはソコクロダラやキタノクロダラのように水深1000メートルまで分布する種もいます。一方でチゴダラは浅海から水深650メートルかけて幅広く記録があり、タラ目の中では珍しく堤防釣りでも見ることのできる種なのです。
しかし、成長とともに深場に移動することが知られており、漁業においては主に底引き網や深場での釣りで漁獲されています。主な産地は北海道や三陸ですが、静岡県、神奈川県、愛知県で漁獲されたものも流通します。
かつて、東京湾以南の深場に生息する種をチゴダラ、函館以南の浅所に生息する種をエゾイソアイナメとし、体色や眼の大きさや分布域で識別していましたが、最近の研究でチゴダラとエゾイソアイナメは同種ということが判明しました。
この場合、エゾイソアイナメのほうがチゴダラよりも後に名前が付いたため、「先取権の原理」によりエゾイソアイナメという名前は消えてしまったのです。
東北では郷土料理として親しまれる
チゴダラは全国的にはまだ馴染みがないですが、岩手県や宮城県などの三陸では古くから親しまれています。郷土料理である「どんこ汁」はチゴダラの身と肝を野菜、豆腐などと一緒に味噌汁にしたものであり、寒い時期には体を芯から温める料理として愛されているのです。
特に冬場に肝が大きくなったチゴダラは絶品であり、煮付けや天ぷらの他、鮮度の良いものはなめろうや刺身にして食べられています。チゴダラは鮮度の低下が早いため、生食できるのは産地ならではでしょう。他にも岩手県田野畑村にはチゴダラを使った郷土料理「どんこなます」が伝承されています。
また、チゴダラはオタマジャクシのような体型から「大きな口からたくさん入って、小さな尻から出ていきにくい」とも言われ、お金の貯まる縁起の良い魚として知られています。
実際に気仙沼では「財布魚」と呼ばれ、恵比寿様を祀る「えびす講」で金運招来祈願のお供え物として利用されます。この時、チゴダラの浜値は通常の数倍にもなると言われています。
ハゼの仲間にもドンコがいる?
ドンコはチゴダラの別名でしたが、実は正式名称が「ドンコ」の魚もいるのをご存じでしょうか。
ハゼ亜目・ドンコ科・ドンコ属に属するドンコは小型種で河川や湖沼に生息します。一見するとハゼ科の魚に似ていますが、腹ビレは吸盤状にならないことが特徴です。ドンコの名前の由来は不明ですが、分類も生息域も全く異なる種に同じ名前がついてるのは面白いですね。
チゴダラは深場から漁獲されることが多いことから、水圧の影響で胃袋が飛び出した様は時としてグロテスクに思えてしまいます。しかし、見た目とは裏腹に実は非常に美味な魚として知られており、三陸ではもちろんのこと、関東でも見られるようになってきました。
特に冬場に漁獲されるチゴダラの肝は格別な旨さで、価格もそこまで高くはありません。魚屋で見かけた際にはぜひ食べてみてください。
(サカナト編集部)