誰しも一度は夢に見たことがあろう自分が新種を発見するということ。自分がその生物の名前を決められるなんて夢がありますよね。ではどのようにしてその生き物を新種とするのか。知らベてみました。
(アイキャッチ画像提供:PhotoAC)
新種かな?と思ったら
サカナを釣ったり採ったりしていると、一度は体験したことがあるかもしれません。
「え、何だろうこのサカナ。もしかして新種なんじゃないか?」という希望。
全然見たことのないサカナではあっても、そのほとんどはすでに発見され、名前を付けられたサカナです。
いま現在、全世界で約3万6千種のサカナが発見されていますが、これは広い海の中に生きるサカナのほんの一部でまだまだ未発見のサカナは数多く存在しています。もし見つけたら「どんな名前にしようかな」と一度くらい考えたことはあるはずです。
では本当に新種を見付けたかもしれない場合、私たちはどのような手順を踏めばいいのでしょうか。
名前を付けるのは分類学
分類学という学問の基礎には「名前を付けること」、つまり新種を発表することがあります。
地球上に未だ眠っているだれも知らない名も無き生物に名前を付けるということです。このような名も無き生物のことを「新種(未記載種)」 と言います。
新種を見つけることはとてもすごいことのように思われますが、実は誰でも新種に出会えるチャンスはあります。
ですが、新種かどうかはっきりと結論を出すには見つけることよりも相当な労力と時間が必要になってきます。
(1)どこにも載っていないか調べる
まず新種らしき生き物を見付けた場合、まずはその生き物を誰も見つけていないことを証明しなければなりません。
手始めに図鑑を片手に名前を特徴などから名前を調べます。これだけでも相当大変な気がしますが、図鑑に載っていないと断定できた場合、次に論文などの文献に当たらなくてはいけません。
これまでに発表されてきた数々の論文を、歴史をさかのぼりながら辿たどっていき、該当するサカナがいないか探します。
すでに発見されたものでも発見の古いものだと1800年代まで遡ることもあり、それが海外で……となればその論文も文献を調べなければなりません。
英語のみならずフランス語やドイツ語、ロシア語、ラテン語などさまざまな言語で記述されているので読み解くには一筋縄ではいきません。
「それでも見つからない」となってはじめて新種として登録する過程に移っていけます。
(2)新種だと登録する
文献を過去にさかのぼって調べていき、顕微鏡を使って多くの標本を慎重かつ詳細に精査した結果、そのサカナが新種だと分かった場合、学術論文を書く必要があります。
せっかく新種を発見したとしても、論文として公表しなければ世間には認められません。
このような論文は記載論文と呼ばれ、ある程度の決まり事をまとめる必要があります。
まず、新種の学名をラテン語かラテン語化された他言語で明記し、種の特徴と近似種との区別点を種の特徴が分かる図も添えて記します。
また、記載に用いた標本の中から、タイプ標本(ホロタイプ)という一番最初の指標となる標本を指定する必要もあります。その際には採集情報と現在の保管先も明記しなければなりません。
これらの内容は『国際動物命名規約』(植物の場合は国際植物命名規約)という、いわば法律のようなルールに則って論文を準備することになります。
そして完成した論文を学術雑誌へ投稿し、紙媒体で出版された日をもって初めて新種として発表されることになります。
認定されるまでの期間
以上のような一連の作業を経て、ようやく新種として発表することができます。
正体不明の生物の名前を調べるだけであれば、専門家であれば早くて数日以内に終わりますが、手元に資料がないような生き物の場合は数週間から数ヶ月かかることもしばしばあるようです。
新種として論文を発表するまで(学会誌に掲載されるまで)は、研究者によりまちまちですが、数ヶ月から数年は時間を要すると言われています。
新種を発見して発表するということは、生き物に興味のある方なら誰でも一度は持つ夢やあこがれだと思いますが、実はその裏には膨大な時間と労力、そして忍耐力が必要なのです。
個人では不可能なので学芸員を頼ろう
以上の過程を必要とする新種の認定ですが、おそらく一個人ではここまでの作業は不可能と言えるでしょう。新種らしきサカナや生き物を見付けた場合、一番手っ取り早いのは近隣の水族館や博物館の学芸員に相談することです。
学芸員とは博物館法で定められた博物館や美術館、水族館などで、歴史、芸術、民俗、産業、自然科学についての資料を収集、保管、展示するとともに関係する調査研究を行う専門の職員です。
彼らにその未知の生物を渡し、研究してもらうことが新種として認めてもらう一番簡単な方法と言えるでしょう。
今でも年間に約300種類が新種として登録されています。一日1種類くらいのペースで見つかっていると考えると誰にでも夢があるなと思えますよね。
<近藤 俊/サカナ研究所>