サケ科の魚でもっとも美味と言われる「キングサーモン」の和名は「鱒の介」。この介とは一体どういう意味なのでしょうか。
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キングサーモンの養殖が始まる
イカやブリなどの漁業が盛んな北海道函館市で、いま「キングサーモン」の稚魚の育成事業が行われているのをご存知でしょうか。
同市は国内初のキングサーモンの完全養殖技術確立を目指しており、実証のための養殖試験を続けています。先月には人工授精により孵化したキングサーモンの稚魚を中間育成施設へ移動させています。
このまま広い屋外水槽で1年間飼育し、1匹約30~500gまで育ったところで海面養殖に切り替えていくということです。出荷サイズまで育成できれば「完全養殖の成功」ということになります。
標準和名は「マスノスケ(鱒の介)」
キングサーモンは大きく成長するサケの一種で、その大きさは1mを超えることもあります。
彼らは日本でも少数ながら水揚げがあり「マスノスケ」という和名がつけられています。これは漢字で書くと「鱒の介」となります。
介とは中世日本における政治的役職で、小地域を統べるリーダー的なポジションです。
昔の人は、巨大なキングサーモンが普通のサケに混ざって獲れる様子を「サケの群れのリーダー」に例え「鱒の介」と名付けたのではないかといわれています。
実はいくつかある「スケ」のつく魚
魚の地方名を調べていると、同様に「スケ」がつく魚がいくつかいることがわかります。まず、そもそも普通のサケ(シロザケ)の中でも特に大きいものをスケと呼ぶことがあるようです。
また他には「トキシラズ」のような高級サケもスケと呼ばれる場合があります。サケ以外の魚では、クロダイの大きい個体を「オオスケ」と呼ぶ地域があるようです。
これらはいずれも「同種の魚と比べて大きかったり高かったりして、存在感があるもの」を指して名付けられたと考えられており、つまりマスノスケと同じ語源だといえるでしょう。
なお、スケと聞いて多くの人が思いつくであろう「スケトウダラ」は「介党鱈」「助っ人鱈」といった字が当てられます。この魚はときに大量に水揚げされることがあり、その処理に人手を要したことから「助っ人を呼ぶタラ」としてこのような名前になったといわれています。
<脇本 哲朗/サカナ研究所>