人気の海産食材アナゴ、と言えばほとんどの方が魚を思い浮かべると思いますが、実は魚ではない「海に棲むアナゴ」が存在します。
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あなたはウナギ派?アナゴ派?
ウナギと並び人気の高い「長物」のひとつ・アナゴ。ウナギ目に属する魚の代表グループのひとつで、我々日本人にとって非常になじみ深いものです。
アナゴの中にはマアナゴ、クロアナゴなど浅い場所に生息するものから、やや深い場所に生息するオキアナゴ、深海性のイラコアナゴなど数多くの種があり、幅広い環境に適応したグループといえます。
国内ではマアナゴ、クロアナゴ、ダイナンアナゴ、イラコアナゴなどが食用にされています。姿かたちがそっくりなウナギと味が比較されることも多いですが、アナゴは海水生のため泥臭みがなく、ウナギほど脂が強くないさっぱりとした味わいが身上とされます。
個人的には「スタミナをつけたいときはウナギ、食欲がなくても食べられるのがアナゴ」というイメージで食べ分けています。
アナゴの旬は夏か冬か
今の時期、6月から8月にかけてはアナゴの代表種であるマアナゴの旬とされ、流通量が多くなります。そのためこの頃のマアナゴを指して「梅雨穴子」とも呼んだりします。釣りにおいてもこの時期から狙う人が増え、遊漁船も出船します。
しかし実際のところ、この時期のマアナゴは、一年のなかでとりわけ太っているというわけではありません。ただ前記の通り、マアナゴはウナギと比べると脂がのりすぎずさっぱりとしていることを求められます(特に関東において)。そのため、この時期を旬とする考え方が生まれるのです。
筆者は正直なところ、今の時期のものよりも、秋から冬にかけて強く脂が乗った大型の個体のほうが好みです。特に西日本ではそう考える人が少し多くなるのではないでしょうか。
マアナゴは魚とは限らない
そんなマアナゴですが、紛らわしいことに、同じ名前で呼ばれる別の生き物がいます。そしてその生き物は、魚ではなく貝です。
「貝のマアナゴ」はアワビと同じミミガイ科の貝で、標準和名はマアナゴウ。しかし流通の現場においては基本的にはマアナゴと呼ばれているようです。漢字で書くと「真穴貝」となり、その字の通り岩がくぼんでできた穴のなかにはまりながら暮らします。
実は魚のアナゴも元は「穴魚(アナギョ)」だったという説があり、彼らが昼間の間、岩の穴などのような場所に隠れる習性をもっているのが由来とされています。つまり魚のマアナゴと貝のマアナゴは、互いに生態が近いために近い名前になってしまったといえるのです。
<脇本 哲朗/サカナ研究所>