古くから友好と戦争の歴史を繰り返すイギリスとフランス。そんな両国間には今、漁業権をめぐるトラブルが発生しています。
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英仏間で漁業権トラブル
先月末、フランス当局が、フランス沖の英仏海峡でイギリスの漁船を拿捕したと発表し、世界的なニュースとなりました。フランスはさらに、英国のトロール(底引き網)漁船に対して、フランスのほぼ全ての港の利用を認めないと続けて発表。
これに対し、イギリス政府報道官は「フランス側の措置は正当化できないものと主張し、両国の合意や国際法に沿うものではないとの見解を示しました。イギリス政府はフランス政府の対決姿勢を隠さない言葉遣いにも遺憾の意を表し、フランス大使を呼び出すことを決めたと宣言しました。
この問題に対しフランスのマクロン大統領と英国のジョンソン首相は10月31日、主要20カ国・地域首脳会議(G20サミット)の開催地であったローマで会談を実施。関係修復を目指しましたが、水掛け論に終止し、亀裂は逆に深まる結果となったといいます。(『英仏、漁業権巡り対立 関係修復目指すも、逆に亀裂深刻化』毎日新聞 2021.11.1)
なぜこじれている?
英仏間ではブレグジット(英国のEU離脱)後の、双方の領海における漁業権を巡る争いが長く続いている状態にあります。今回フランスが発表した措置は、英国がフランスの一部漁船にブレグジット後の漁業許可を認めなかったことへの報復処置であると見られています。
フランスのカステックス首相は会見で、イギリス領海でのフランス漁船が行う漁業申請のうち、約40%が認められていないと述べています。その一方、イギリス政府報道官は同じ日に、EU漁船のイギリス領海における漁業申請の98%に許可が与えられていると述べており、こちらも水掛け論になってしまっています。
欧州委員会の報道官は、EUが英仏両国との協議を行い、この漁業権に関する問題の解決を目指していると発表しました。これに関して「これまでこれらの海域で操業していたフランス漁船は漁業継続が認められるべきだ」との認識を示したそうです。
ただ、これはあくまでもEUに加盟中のフランスに配慮した意見であると見るべきで、この発言に対するイギリスの反発は出るのではないかと思われます。
タラ戦争を彷彿?
欧州では過去にも、同様の「漁業権をめぐる国同士のトラブル」が発生したことがあります。そのうち、最も大規模なものの一つが、今回の当事者でもあるイギリスと、大西洋に浮かぶ島国アイスランドの間で起こった通称「タラ戦争」です。
これは名前の通り「タラ」の漁獲権をめぐり両国が争ったもので、人的被害は出なかったものの、軍艦が出動したり、漁網を切るための船が活躍したりするなど、実力行使が行われるまでに至りました。最終的にアイスランドの「経済水域」が認められる形となり、タラの漁獲の多くと関連する雇用を失ったイギリスの「負け」と認識されています。
タラ戦争は「領海」や「経済水域」といった概念を世界各国が認識・設定するきっかけとなり、遠洋漁業が盛んであった日本にも間接的にダメージを与える形となりました。
なお、今回のトラブルでもフランスはイギリスからの輸入品の通関検査の厳格化などの「実力行使」を行うと発表していましたが、直前になりイギリスから「協議の申し入れがあった」として取りやめになったそうです。
欧州の大国であるイギリスとフランスの間に起こった21世紀版「タラ戦争」はどうなっていくのか、今後の展開に注目が集まっています。
<脇本 哲朗/サカナ研究所>