寿司ネタとして最もポピュラーな二枚貝のひとつアカガイ。その最高級産地として知られる宮城県閖上で、今年の漁が解禁されました。
(アイキャッチ画像提供:PhotoAC)
閖上の「アカガイ」漁が解禁
仙台湾に面し、アカガイの名産地として知られる宮城県名取市の閖上(ゆりあげ)漁港。ここで、今月1日からアカガイ漁が解禁され、賑わいを見せています。
「閖上のアカガイ」は肉厚で味も非常に良いと高い評価を受けており、超のつく高級食材として全国にその名を轟かせています。
昨シーズンは貝毒の影響を受け、水揚げは20tにとどまったという閖上のアカガイですが、今季は現時点でもそれなりの水揚げがあるといいます。ただし現在、高級魚介類が新型コロナウイルス感染症の影響で軒並み値下げしており、アカガイの値下がりを心配する声も漁師たちの間からは聞こえてくるといいます。
アカガイとはどんな貝?
アカガイという名前自体は知っていても、その生きている状態を目にしたことがある人は意外と多くないかもしれません。アカガイは殻幅10cmを超えることもある中型のニ枚貝で、丸みを帯びており、「放射肋」という筋が細かく入っています。
内湾の潮間帯や浅海の砂泥底に浅く潜って生息しており、殻を開けると血のような赤い体液を吹き出し、鮮やかな朱色の身が顕になります。これが「アカガイ」という名前の由来です。
彼らの血液に含まれる「エリスロクルオリン」という成分が、ヒトの赤血球に含まれるヘモグロビンと同じく鉄分を含むため赤く見えるのです。
アカガイはかつては東京湾などにもたくさんおり、江戸前の寿司ネタとして欠かせないものでした。しかし干潟の埋め立てや乱獲で激減してしまい、いまでは中国や韓国からの輸入物がほとんどとなっています。
閖上のアカガイが美味なワケ
閖上の沖合は、暖流である日本海流(黒潮)と、寒流である千島海流(親潮)がぶつかる「潮目」となっており、プランクトンが非常に豊富です。そのためそこで育ったアカガイは他の産地のものと比べてサイズが大きく、身が太っていて分厚く、鮮やかな身色と香りの良さがあると評価されます。
豊洲市場ではアカガイのことを、サルボウやサトウガイといったよく似た近縁種と区別するために「本玉」と呼んでいます。しかし業者によっては「閖上産アカガイ」のみを「本玉」と呼ぶこともあるそうで、それくらい「閖上のアカガイ」は特別なものなのです。
仙台湾に面している閖上地区は、東日本大震災では津波により壊滅的な打撃を受けました。アカガイ漁もまたその存続が危ぶまれるほどの状況に陥りましたが、「ブランドの火を消すまい」と漁師たちが復興に尽力し、いまも国産アカガイの最高峰として高い評価を得ているのです。
<脇本 哲朗/サカナ研究所>