たこ焼きや酢の物など、我々の食卓に欠かせないマダコ。日本各地で水揚げされる馴染み深い水産物ですが、その旬はいつなのでしょうか?
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マダコの需要が増加中 「巣ごもり消費」も影響
盛夏をむかえ、全国の市場でマダコの入荷が増え、話題となっています。
1日平均700kg、多い日は1tものマダコを取り扱う熊本市西区の九州中央魚市では、7~8月にかけて入荷量が最盛期となるそうです。この時期のマダコは当地では「盆ダコ」と呼ばれ、一年の中でも特に身がやわらかく美味しいタコとして珍重されています。
今年の入荷量は昨年より2割ほど多く、価格も高値で推移しているそうです。この好況はコロナ下で巣ごもり需要が増加したためだと考えられており、スーパーや量販店からの引き合いも増えているといいます。
マダコ以外のタコも
その名に「真」とつくことからもわかる通り、我が国で最も代表的なタコとされているのはマダコです。しかし実際のところ、マダコが最も主要な種というわけではない地域もあります。
例えば東北地方では、1匹30kgを超える世界最大のタコ「ミズダコ」が盛んに漁獲されています。名前のとおり肉に水っぽさがありますが、柔らかく食べやすいことや、大きく食べごたえもあるので人気となっています。
また瀬戸内海では特に冬の間「イイダコ」が盛んに漁獲され、食べられています。イイダコは小型のタコで、産卵期には炊きあがったご飯粒のような卵をもち、煮物などで美味しく食べることができます。
この他にもヤナギダコ、テナガダコなど、それぞれの地域に根づいた食用ダコが知られています。それだけタコという生き物は我が国で食材として愛されてきたのでしょう。
マダコの旬は夏?冬?
上記の通り、九州では真夏のタコを「盆ダコ」と呼び珍重しています。また瀬戸内海沿岸地域でも、夏のタコを「麦わらダコ」と呼び、旬としています。関西では半夏生(七夕前の5日間)にはタコを食べるという風習があるのですが、これには「一番暑い時期に、スタミナ食材であるタコを食べることで元気を出す」というような意味合いがあるようです。
一方、東北地方ではマダコは真冬に水揚げされたものが人気です。自家消費だけでなく、年末年始の贈答用としても欠かせないといいます。なぜ、地域によって旬が変わってしまうのでしょうか。
実は、マダコにはこれという産卵期がなく、地域によって変異が大きい上、周年産卵行動が見られるようなところもあるようです。そのためマダコの旬は魚のように「産卵期である/ない」ことで決まることはなく、その土地々々の「食文化」によって決まるものといえるのです。
<脇本 哲朗/サカナ研究所>