大手回転寿司チェーン2社で、「天然クエ」と「アブラボウズ」がそれぞれ登場し、話題になりました。これらの2種の魚について、かつてとある「事件」が発生したことがあります。
(アイキャッチ画像提供:PhotoAC)
あの高級魚、しかも天然物が格安回転寿司に!?
大手回転寿司チェーンの「くら寿司」が先般、「幻の高級魚くえ」というフェアを開催し、話題となりました。
1kgあたり1万円を超えることもある幻の高級魚”クエ”を格安回転寿司で提供する、というインパクトある企画で、しかも比較的安価な養殖魚・幼魚ではなく、九州地方産の天然もの、しかも10kg以上の成魚のみを厳選しているといいます。(『スシロー「とろとろ祭」に深海魚アブラボウズ登場、本鮪大トロ・和牛サーロインやうにクリームコロッケ・クリームティラミスも』食品産業新聞社 2021.3.2)
生、あぶりのほか、天ぷらの握りも提供され、1貫200円という価格で提供。一週間の期間限定フェアですが、終了を待たずに売り切れる例もあったようです。
別の回転寿司チェーンではアブラボウズも
一方、回転寿司チェーン業界最大手の「スシロー」では、くら寿司のフェアよりやや早く「とろとろ祭り」というフェアを開催。こちらでは「アブラボウズ」が提供され話題となりました。(『くら寿司に幻の高級魚クエ、中とろ100円フェアや特盛「大甘えび」「本ずわいがに」登場も』食品産業新聞社 2021.3.10)
アブラボウズもまた「幻の魚」といわれる巨大な高級魚。全身にたっぷりと脂が乗っており、相模湾沿岸や駿河湾沿岸などで珍重されています。
アブラボウズは水深1000mほどの場所に棲息する深海魚。そのため一般的な魚と比べると水揚げは少なく、知名度は低いですが、好きな人は大好きというカルト的人気のある食用魚です。
かつての「偽装事件」
このクエとアブラボウズ、お互い全然関係なように見えますが、実は深い因縁が存在します。
クエは古くから知られる超高級魚で、大きいサイズのものでは1kg単価が数万円になることもあります。一方でアブラボウズは今でこそ高級魚ですが、かつてはそこまででもありませんでした。体脂肪が多い魚であるため、冷蔵技術が未熟だった時代は劣化が起こりやすく、また脂があまりに多いために食べ過ぎるとお腹がゆるくなることがあったためではないかと思われます。
アブラボウズは生息場所こそクエと全く異なるもの、巨大ながら根魚らしさのある外見や、白く美しい身の見た目が似ており、クエの代用魚に使われることがありました。かつてはこのような偽装が横行し事件に発展したこともあり、21世紀になってから行政処分を受けた流通業者もあります。
味わいの面で言えば、クエは弾力のある身と強い旨味が魅力なのに対し、アブラボウズはたっぷり乗った脂のとろける質感が魅力で、まるで正反対であるとも言えます。アブラボウズも大変美味な高級魚であり、なにかの代用魚とするのはリスペクトを欠く行為といえるでしょう。
<脇本 哲朗/サカナ研究所>