瀬戸内を代表する魚介食品「ママカリ」。当地で偏愛されるため、瀬戸内海にしか棲息していない魚だと思われることがありますが、「サッパ」は全国どこにでもいる魚なんです。
(アイキャッチ画像提供:PhotoAC)
水族館の「主役級」ママカリの展示
岡山県玉野市の玉野海洋博物館の展示が話題となっています。当館には「瀬戸内海の生き物コーナー」という展示水槽があるのですが、そこに先月「ママカリ」が補充されたのです。
ママカリは岡山県を中心に強く愛され、郷土の名産となっている魚の酢漬けです。瀬戸内の料理ではありますが、岡山名物「ばら寿司」の具材に使われ、駅弁などで親しまれているため、全国的な知名度を誇ります。
普段美味しく食べている魚の活きている姿が見られるとあって、人気の展示となっています。
この水族館ではほかにもイカナゴやキュウセン、イイダコなど「地魚」の飼育・展示に力を入れているそうです。(『ひとときの涼 ママカリの群泳 玉野海洋博物館、90匹追加』山陽新聞 2020.8.24)
正式和名は「サッパ」
さてそのママカリですが、実は学術的な名前ではありません。正式和名はサッパといい、笹の葉みたいにぺったんこ(側扁している)であること、あるいは味がややさっぱりしていることから名付けられたと考えられています。内湾や河川の河口部など砂泥底の浅い海域に群れをなして棲息し、瀬戸内海ではとくにたくさん水揚げされています。
サッパは、イワシやニシンなどの美味しい魚が多い「ニシン科」の魚のひとつ。大きくても20cm程度にしかならない小魚ですが、身の味が良いことで知られています。
イワシなどと同様に身に小骨が多いのですが、体が薄いためまるごと酢漬けにしても酢がよく染み込み、背骨まで柔らかくなります。そもそも酢との相性が良い青魚のひとつということもあり、酢じめである「ママカリ」が代表的な料理として知られるようになったのでしょう。
実は身近なママカリ
さてこのママカリ、岡山周辺のものというイメージがあまりに強いためか、その他の地域、とくに東日本や首都圏ではほぼ無名の存在となっています。そのためときに「瀬戸内海にしかいない魚」だと思われることもあるのですが、実は全国的に分布しています。
東京湾や大阪湾といった都心部の海にも大量に棲息しており、しばしば河川にも入り込むため、本当はとても身近な魚のひとつ。釣りでも簡単に姿を見ることができ、群れさえ寄っていれば子供でも数釣りが可能です。
人気の釣り物になるかも?
春になると脂が乗り、焼くと脂が弾けるほどで、旬のニシンやイワシにも引けを取らない美味しさになります。瀬戸内以外で盛んにサッパを食用としている有明海沿岸では、この魚のことを「はだら」と呼び、脂がポンポンと爆ぜるようにしっかりと焼いた「はだらのぽんぽん焼き」が好んで食べられています。
これだけ味が良く、どこでもいる魚なのでもっと人気が出ても良いと思うのですが、現状の知名度に甘んじているのは不思議なことです。その美味しさがより広く知られ、鮮魚店の店頭に並ぶようになればいいなといつも思っています。
<脇本 哲朗/サカナ研究所>