海に行くと必ず見かける愛らしい生き物「ヤドカリ」。観察するほか、釣りエサとして用いられることで知られていますが、実は人が食べても美味しい食材です。
(アイキャッチ画像提供:PhotoAC)
エビでもカニでもない「ヤドカリ」
ヤドカリという生物を知らない人はいないと思います。しかし「ヤドカリってどんな生き物なの?」と聞かれたときに、スラスラ答えるのは意外と難しいかも知れません。
ヤドカリはエビやカニと同じ「甲殻類」(十脚目)の代表的なもの。彼らとの違いは腹部があまり発達せず、左右対称の形状をしていません(そのため異尾類と呼ばれることもある)。
腹部は多くの種において、死んだ巻き貝の殻に収められますが、ヤシガニのように頭胸部の裏側に折りたたんで格納することもあります。そのため上記の質問に「ヤドカリは『宿を借りる』生き物」と答えると、必ずしも正しいとは言えないということになってしまいます。
ちなみにそのヤシガニは甲殻類のみならず、陸上に棲息するあらゆる節足動物(虫も含む)のなかでも最大のものとして知られています。ヤドカリは意外とキャラが濃い生き物群なのです。
釣りエサとして重宝されるヤドカリ
さて、多くのヤドカリは海中に棲息しており、波打ち際などの浅いところにも多く棲息しています。柔らかい腹部を守るために貝殻に格納しますが、外皮そのものもカニと比べると柔らかいものが多く、防御力はあまり高いと言えません。
そのため様々な魚に捕食される存在で、釣りエサとしてはとても有用です。小さいものはカワハギやカサゴ、大型のヤドカリはイシダイやクロダイなど大型の磯魚の好エサとなります。
イシダイ釣りが盛んな地域では、釣具屋にはほぼ必ずと言っていいほど「オニヤドカリ」と呼ばれる大型のヤドカリが売られており、それなりに良い価格がついています。
しかしウニやトコブシ、ときにイセエビといった超高級エサを惜しまず使うイシダイ釣り師にとっては、ヤドカリは「リーズナブルな良いエサ」とされているようです。
実は食用にもされる
さて、その「オニヤドカリ」ですが、一部では魚だけでなくヒトにも食べられています。有名なのが神奈川県三浦市三崎。当地ではイセエビ刺し網に、ホンドオニヤドカリという種類のものがしばしば引っかかり、混獲されるそうです。以前は釣りエサとして販売される以外はほとんど利用されていなかったのですが、近年は街おこしの一環として城ヶ島の飲食店で提供されるようになっています。
サザエやボウシュウボラなどの大型の巻き貝の殻に入るホンドオニヤドカリは、日本のヤドカリの中ではヤシガニを除くと最大種のひとつ。メイン可食部である腹部の肉も多く、食べ出があります。この腹部は刺身にすると、甘海老に似た食感と味があり、知る人ぞ知る美味です。
また、面白いのが中腸線(いわゆるミソ)。ここには特殊な成分が含まれており、これを食べたあとに水を飲むと、なんの変哲もない水がなぜか甘く感じるのです。このことと、身自体に甘みがあることから、三崎では大型のヤドカリ類を「アマガニ」と呼んでいるそうです。(『第2弾は「オニヤドカリ」城ヶ島の名物料理に』タウンニュース三浦版 2012.3)
味もよく、食べたあとも楽しめるヤドカリ。現状、食用として販売されることはほとんどないのが残念ですが、もし見かけたら恐れずトライしてみることをおすすめします。
<脇本 哲朗/サカナ研究所>