前回の(海の生き物たちにとっての「海のオアシス」サンゴの重要な役割を解説)では、サカナにとってサンゴが海の中でどのような役割りをしているのか紹介しました。今回は人類にとってサンゴがどのような役割を果たしているのかをお話します。
(アイキャッチ画像出典:Pixabay)
地球温暖化への対応策
過去の記事「海の酸性化を食い止める 車の排ガスがカキの大きさに影響する?」で海でのサンゴの役割についてご紹介しました。
サンゴの恩恵はサカナだけでなく、人間も受けています。サンゴの役割は大きく分けて4つあります。
・地球温暖化への対抗策
・自然の防波堤
・非常に優秀な漁場
・美しい海を作る
サンゴは海中の熱帯雨林
サンゴは体内に褐虫藻と呼ばれる植物プランクトンを共生させていることは以前の記事でも紹介しました。
サンゴは褐虫藻に光合成をしてもらい、それによって生まれたエネルギーをサンゴは分けてもらって生きています。しかも一般的な樹木よりも高く、同一面積あたりで6~16倍もの量を固定できると言われています。
光合成については中学校の理科の授業でも勉強したと思いますが、
太陽の光 + 二酸化炭素 = 酸素 + 水
こんな式がテストに出ていたと思います。覚えていますか?
サンゴは木と同様に二酸化炭素を吸収して、酸素を排出しています。二酸化炭素を炭酸化合物として留める機能のことを「固定」と言います。地上でも熱帯雨林が同じように大量の二酸化炭素を固定してくれています。
海中ではサンゴが、地上では熱帯雨林が地球温暖化の原因の一つである二酸化炭素濃度をコントロールしてくれているのです。
彼らがいなければ、二酸化炭素の濃度のバランスが崩れ、海洋生物すべてに大きな影響があると言われています。ひいては、その海洋生物を食べている人間にも影響がでてきます。
自然の防波堤
サンゴは二酸化炭素のコントロールだけでなく、私たちの生活自体を守ってくれる場面があります。
皆さんはオーストラリアにあるバリアリーフをご存知でしょうか。観光地としても有名ですが、バリアリーフとは沖合にサンゴ礁が発達し、まるで陸を波からバリアする防波堤のようなサンゴ礁(=リーフ)を指します。
幻想的な美しい風景だけでなく、バリアリーフを始めとしたサンゴがつくる浅瀬や起伏に富む海底が、大波にブレーキをかけ、自然の防波堤の役割を果たしてくれるのです。
実際に22万人以上が亡くなった04年12月のインド洋大津波でもそのサンゴの恩恵を受けた地域があります。
なんと甚大な被害が出たスリランカ南部のリゾート地ヒッカドゥワには、一人の死者も出なかった地区がありました。
サンゴ礁が私たちの知らないところで、どれだけの人を守ってくれているのか計り知れません。
非常に優秀な漁場
そして何よりもサンゴ礁は、豊富な漁場になります。サンゴ礁は海洋面積の0.2%ほどですが、その限られた地域に93,000 種以上の動植物が生息していると言われています。
サンゴ礁は地域社会の維持にも非常に重要で、80以上の国の数え切れない地域社会(世界人口の実に2割)が収入と食料をサンゴ礁に依存しているといわれています。
1キロ平方メートルのサンゴ礁が、年間で15tもの食料を生産してくれ、1,000人以上を養えるのです。
以前の記事でサンゴが生態系の基盤を作ってくれていることを紹介しましたが、私たち人間はこの生態系のピラミッドの頂点に位置しています。
美しい海の景観を作り出す
沖縄やハワイなど美しい白い砂浜が輝くリゾート地に旅行する人も少なくないはずです。
サンゴには、海を浄化し、海水を綺麗に保つ能力もあります。サンゴの生息している海は浄化によって透明度が高くなります。
また、死んだ後もサンゴも皆さんが憧れる美しい海を作ることに一役買っています。サンゴは柔らかい本体の部分の下に、石灰質でできた骨格を持っており、死ぬと石灰質の部分だけが残ります。この石灰質が波の力などで長い時間をかけて粉々に砕けることであの眩しいほどの美しく白い砂浜を形成しているのです。
そして、この透明な海と、海岸を作っている真っ白な砂浜が揃うことで、海は特別な姿にかわります。
白い砂は海底に届いた太陽光を反射して海水を美しいエメラルドグリーンに見せてくれるのです。南国の海の象徴である青と白の美しいコントラストは、この二つが揃うからこそ生まれます。
美しい海に珊瑚がいるのではなく、サンゴがいるからこそ、その土地の海は美しくなるのです。
サンゴを絶滅させてはいけない
サンゴは私たちの知らないところで、津波などの脅威から守ってくれたり、人類の生活そのものを豊かにしてくれています。
もしサンゴが地球上から消えてしまうと、人類の生活がどのように変化するかなど想像もつきません。
サンゴが少なくなると、サカナが少なくなり、人類が食べられるサカナの量も減ってしまいます。
古くからサカナに頼って生活を送ってきた日本人だからこそ、もっと身近な問題と捉え、今よりももっと一人一人が意味のある行動をすることが大切です。
人類はこの命のゆりかごであるサンゴを絶対に絶滅させてはいけないのです。
<近藤 俊/TSURINEWS・サカナ研究所>