ベラの仲間は夏から秋にかけて関東の磯でよく見られる魚ですが、チョウチョウウオやスズメダイほど人気はなく、採集家にスルーされがちです。しかし成長に伴い色彩や模様が変化し、その美しさを水槽で観察することも可能です。ここでは筆者が採集・飼育したベラの変身記録を紹介します。
(アイキャッチ画像提供:椎名まさと)
我が家で観察したベラ
実際に筆者が採集し自宅で飼育したベラについて紹介します。
それぞれ幼魚からの色彩変化も記しているので、飼育した場合にどのような楽しみ方ができるのか参考にしてみてください。
トカラベラ
トカラベラHalichoeres hortulanus(Lacepede,1801)はホンベラ属のベラで、大きいものは全長で20cmほどになり、ホンベラ属のベラとしては大きい方といえます。
トカラベラ(撮影:椎名まさと)本種は通常、ホンベラ属に含められていますが、Kuiterのベラ図鑑ではHemitautoga属とされており、この属はほかにミツボシキュウセンとセイテンベラが含まれています。
これら3種はいずれもホンベラ属としてはやや大きくなり、サンゴ礁域の浅い所に生息しています。飼育にあたってはとくに難しいことはないですが、夜間は砂に潜るので、細かいパウダー状の砂を敷いてあげましょう。
トカラベラの幼魚・2018年10月26日撮影(撮影:椎名まさと)トカラベラの幼魚はクリーム色の地色に茶色い横帯が入り、背鰭には目玉模様がはいっています。この模様は、チョウチョウウオ科の幼魚においてよく見られる目玉模様と同様に身を守るのに役に立つのかもしれません。
トカラベラ・2018年11月20日撮影(撮影:椎名まさと)採集してひと月近くが経つと、眼の後方の黒い横帯の中に緑色の斑点が入り、尾鰭の黄色が目立つようになりました。
体側中央の黒い帯の前方、背鰭先端より少し後ろに白い点がありますが、これは成魚でも残ります。
トカラベラ・2019年3月18日撮影(撮影:椎名まさと)成長による体色変化
採集して5か月近く経つと、眼後方の黒色横帯はほぼ消失し、体側と尾鰭付け根の黒色横帯も白い部分が多くなってきました。
トカラベラ・2019年9月27日撮影(提供:椎名まさと)眼の後方と、尾鰭の付け根にあった黒色横帯が完全に消失し、体側中央の黒色帯も背中に残るのみとなりました。背鰭には目玉模様のほかにも細かい模様が入っているのがわかります。頭部の緑の斑点も薄くなり、眼後方の黒い横帯があったところに赤色の斑点が散らばるようになりました。
体側の斑点はやがて、黒く縁どられた白い点列が並ぶようになり、体側中央の黒い帯はもっと小さくなります。性転換し雄相になると緑色の体になります。
ヤマブキベラ
ヤマブキベラThalassoma lutescens(Lay and Benett, 1839)はニシキベラ属のベラで、成魚は四国南岸、琉球列島、小笠原諸島、スリランカ以東のインドー太平洋に生息し、幼魚は死滅回遊魚として、夏から秋にかけて相模湾などに姿を現します。
ヤマブキベラ(撮影:椎名まさと)ニシキベラ属のベラは遊泳性が強く、岩の隙間を縫うように泳ぐため、小さな水槽で飼育することはできません。成魚は90cm以上、できれば120cm以上の水槽で飼育してあげたいものです。
基本的にはサンゴや岩の隙間で眠るため、砂は敷かなくてもよいでしょう。
ヤマブキベラの幼魚・2018年10月26日撮影(撮影:椎名まさと)全長2.5cmほど。この個体は上記のトカラベラと同じ磯で見られた幼魚を採集したもので、オトメベラやコガシラベラ、オニベラといった種の幼魚に1匹だけ混ざっていたものです。
小さいうちは同じようなニシキベラ属の魚やカミナリベラ属の魚と群れを作っているようです。
ヤマブキベラ・2018年12月31日撮影(撮影:椎名まさと)全長3.5cmほど。背中の茶色が薄くなり黒色縦帯と尾鰭基底の黒色斑が目立つようになります。
10月26日の写真では腹部が濃いオレンジ色になっていましたが、このくらいの大きさでは薄くなるようです。頭部には黄緑色の模様が出てきています。
ヤマブキベラ・2019年3月12日撮影(撮影:椎名まさと)全長4cmほど。体は黄色が強くなり、体側の黒色縦帯や尾鰭基底にある黒い点は薄くなり目立たなくなってしまいました。頭部の模様は12月31日撮影の写真よりも鮮やかになっています。
ヤマブキベラ・2019年3月25日撮影(撮影:椎名まさと)この頃には全長4.5cmほど。前回の写真から13日しか経っていないのですが、黒い縦帯は目立たなくなり、体は黄色みが強くなっています。また尾鰭の上・下の軟条が少し伸びています。
ヤマブキベラ・2019年5月23日撮影(撮影:椎名まさと)全長5cmほどに成長しました。この水槽ではロイヤルグランマやクモギンポ、ロウソクギンポ、クロオビスズメダイなどを飼育しています。
性格の変化と注意点
比較的協調性はあるのですが、小型の遊泳性ハゼは追い掛け回すようになってしまいました。このように小さいうちと大きくなったときで性格がかわってきますので注意が必要です。
この後雌相は全身が黄色になり、性転換に伴い雄相になると頭部のピンク色の模様が雌相よりも目立つようになります。色彩は地域により変異もあるようで、とくに西オーストラリア産のものは別種とされるべきかもしれません。
コガシラベラ
コガシラベラThalassoma amblycephalum(Bleeker, 1856)はヤマブキベラと同じくニシキベラ属に含まれるベラです。
コガシラベラ(撮影:椎名まさと)琉球列島や四国、紀伊半島はもちろん、関東周辺でも夏から秋に死滅回遊魚としてやってきます。夜間は岩陰で休息しますが、砂が敷いてあるものの隠れ家が少ない水槽では砂の中に潜って休息することもあります。
コガシラベラの幼魚・2011年8月30日撮影(撮影:椎名まさと)筆者は2011年に紀伊半島で採集したものを飼育。岸壁で海藻ごと網で掬ったら、その中に入っていました。緑色と黒と白に塗分けられた体と、尾柄から尾鰭にかけて入るオレンジ色が美しい印象的な魚でした。
夜間はサンゴの隙間や岩影、二枚貝の殻の中などで眠りますが、砂に潜って眠ることもありました。この写真の右側に写っているのはハゼの仲間のサツキハゼで、半透明な体に黒い縦帯が1本入るため、コガシラベラの幼魚に似ている所があります。
コガシラベラ・2012年4月18日撮影(撮影:椎名まさと)こちらは採集してから7か月以上が過ぎたときの写真で、前の写真と比較して体サイズに対して眼が小さくなり、体側の模様の特徴としては尾の付近のオレンジ色が薄くなり、また体側の黒色の縦帯も縁がぼやけグラデーションができています。
成長と混泳の相性
左奥に写っているのはクロユリハゼ科のアケボノハゼ。温和なコガシラベラは、同サイズのアケボノハゼやハタタテハゼなどの、臆病な魚との混泳もできるのです。
しかし残念なことに、このコガシラベラはある日一緒に入れたフタホシキツネベラにいじめられ、死んでしまいました。フタホシキツネベラなどのキツネベラ類は小型であっても性格が強いものが多く、似た体つきの魚を攻撃することがあるので混泳には注意が必要です。
コガシラベラの雌の成魚(上記の2枚の写真とは別個体)(撮影:椎名まさと)この個体は2019年に四国の高知県で釣れた個体を飼育しているものです。
成長すると飼育下でも10cmを超えるようで、遊泳力も強いので大型水槽が必要になります。また強い水流を好み、驚くと水槽の外へジャンプして死んでしまうこともありますので、水流ポンプやフタなどもしっかりしておきましょう。

