日本の水族館では、サンゴ礁に生息する魚が多く飼育され、その水槽にはサンゴが設置されています。チョウチョウウオがサンゴを食べることで知られていますが、水槽内のサンゴは問題ありません。実は、多くの場合で使用されているのは死んだサンゴや人工的に作られた偽物のサンゴだからです。
(アイキャッチ画像提供:椎名まさと)
「ホンモノ」のサンゴを飼育する水族館
サンゴの飼育はかつては非常に難しいものとされていましたが、1970年代以降、サンゴを飼育する水族館も多数出現しました。
有名なのがモナコ海洋博物館で考案されたいわゆる「モナコシステム」というもので、このシステムは底砂を厚く敷いて、そのなかに「プレナム」と呼ばれる空間を用い、有酸素と無酸素の域をつくり、有酸素域で硝化作用、無酸素域では還元(脱窒)作用によりアンモニア・亜硝酸塩から分解された硝酸塩を亜酸化窒素と窒素ガスに還元される、というシステムです。
このシステムや、プロテインスキマーを使用したベルリンシステムの普及により、サンゴは水族館はもちろん、家庭でも長く飼えるようになりました。
サンゴの本物・偽物の見分け方
その水槽で飼育されているサンゴが本物かどうかは、魚の種類や数を見るとわかります。
魚の数が少な目になっている、または小型の魚が中心で、飼育されている魚もベラ科やスズメダイ科、ハゼ科の魚が多く、サンゴのポリプを食するチョウチョウウオ科の魚がほとんど見られないかどうか。これによって水槽内のサンゴが本物か偽物か、ある程度判断できます。
もちろん例外もあり、例えば沖縄美ら海水族館のサンゴ水槽には、本物のサンゴを飼育している水槽の中にもアミチョウチョウウオやミナミハタタテダイなど大型のチョウチョウウオが悠々と泳いでいました。
環境教育と結びつけられるサンゴ飼育
現在、サンゴはとても貴重なもので、イシサンゴはワシントン条約によって国際的な取引に規制がなされる時代となりました。
しかしながら取引に規制がなされても、そのサンゴを取り巻く事態は好転したとはいえず、サンゴは高水温により白化したり、あるいは周辺の開発により土砂が海に流出、サンゴが死滅するなどし、これらサンゴが集合したりすることでつくられたサンゴ礁も当然ながら危険な状態にあります。
したがってサンゴ飼育においても、変革が求められる時代が到来したということになります。水族館でも、サンゴの飼育がいかに難しいか、あるいはいかにして守るべきかを示すパネル展示も多く見られます。
今後はサンゴの飼育において、繁殖が成功している水族館から、ほかの水族館や一般的なアクアリウムへの販売や譲渡が行われるでしょう。「飼育しているサンゴを海に植えたらいいじゃないか」と思われる人もいますが、それは教育とは結び付けにくいところがあります。
というのも、水族館やホームアクアリウムのサンゴ水槽では世界中様々な場所に生息している魚やサンゴ、そのほかの無脊椎動物が集まっているのですが、それらの卵や寄生生物、伝染病を招く細菌などがサンゴに付着していることがあると、海の中に植えた後にあっというまに広がってしまうおそれがあります。
もちろん公的な団体などが行っているサンゴ礁再生事業では、ちゃんとそのあたりは対策していると思われますが、素人が真似て飼育しているサンゴなどを勝手に海に植えたりする可能性もあるため、よくありません。
参考文献
Sprung J..2000. ジョベール方式、“モナコシステム”の定義と洗練 全編. マリンアクアリスト No.16.マリン企画.
<椎名まさと/サカナトライター>