貝殻島で行われる「サオマエコンブ漁」 ロシアへ入漁料を払って操業する必要あり?

貝殻島で行われる「サオマエコンブ漁」 ロシアへ入漁料を払って操業する必要あり?

今年6月、例年この時期に釧路町~根室地方などで操業されるサオマエコンブ漁が中止もしくは非常に少ない操業回数で漁期を終えたことがニュースになりました。サオマエコンブとは一体なんなのでしょうか?この記事ではサオマエコンブとその漁業についてご紹介します。

(アイキャッチ画像提供:PhotoAC)

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サカナト編集部

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サオマエコンブはナガコンブ

サオマエコンブは漢字で「棹前昆布」と書き、本格的な成昆布漁が始まる前に獲れたナガコンブのことを指します。

ナガコンブは世界に分布するコンブ類の中で最も長く、最大で15~20mにもなります。寿命は3年で成長が早く、成長期には1日で最大13cmも伸びるそうです。

本種は波当たりの強い干潮線~水深5~6mに生息し、北海道の釧路から根室地方の太平洋沿岸、千島列島に分布。北海道の東岸では重要な水産資源として扱われています。

日本ではナガコンブの他にオニコンブやマコンブなどが食用として流通するものの、ナガコンブは他のコンブ類と比較して旨味成分であるアスパラギン酸やグルタミン酸が少ないことから、出汁を取るには向かないとされています。また、煮えやすいという特徴から、おでんの具材や昆布巻きとして利用されているようです。

棹前昆布と呼ばれる所以

では、なぜ成昆布漁よりも前に取れたナガコンブを棹前昆布と呼ぶのでしょうか?

貝殻島で行われる「サオマエコンブ漁」 ロシアへ入漁料を払って操業する必要あり?礼文島の昆布漁(提供:PhotoAC)

昆布漁ではL字型の棹を使い、ナガコンブをすくい上げる方法が用いられており、7月以降成長した昆布(成昆布)が解禁されることを棹入れと呼びます。これに対し、成昆布漁よりも前に取るナガコンブを棹前昆布と呼ぶのです。

棹前昆布は身が薄いことが特徴で早く煮えることから早煮昆布とも呼ばれ、野菜のように扱えることからこちらを好む方もいるようです。しかし、今でこそ成昆布漁と同等に行われる棹前昆布漁ですが、かつては豊漁の年に実入りをよくするための間引きが目的だったとされています。

貝殻浜の昆布漁

貝殻島は北海道の北東に位置する北方領土の島で、北方領土の中では北海道本島に最も近いとされています。

貝殻島はナガコンブの好漁場として知られており、かつては漁業で生計を立てる人もいたそうです。しかし、戦後になり貝殻島及び周辺はロシアが支配。ロシア領となってからは漁を行うにあたってロシアへの交渉や入漁料が必要になり、操業する船も減少したといいます。

なお、今年は例年通り6月1日から9月30日までの間の操業が許可され、採取できる昆布の量は前年よりもやや少ない3,000トンだそうですが、ロシアへ支払う採取料もやや減少し8,037万円となりました(貝殻島周辺コンブ漁 交渉妥結 6月1日から出漁できる見通し-NHK)。

また、今年はナガコンブの資源不足が減少しているとのことから、釧路町と浜中町の3漁協では棹前昆布漁の中止を決定。釧路町沿岸で棹前昆布漁が中止になるのは初めてだといいます(棹前コンブ漁が異例の中止に 釧路町と浜中町の漁協が決定-NHK)。

最近のニュースではスルメイカやサンマの不漁が目立ちますが、我々の生活になくてはならない昆布も不漁になっているのでした。

参考文献

一、棹前コンブ漁業とは-北海道立総合研究機構

<サカナト編集部>