スズキ目タイ科クロダイ属はインド~西太平洋に約20種が知られ、日本では6種が確認されています。本州から九州の沿岸で見られるのは主にクロダイとキチヌで、今回はこの2種の見分け方と、同じヘダイ亜科に属する日本産のヘダイとの違いについて解説します。
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目次
クロダイ属とは
クロダイ属は南アフリカ~西太平洋に生息する、タイ科ヘダイ亜科の属で、この属には20種ほどが知られています。
体色は銀色をしており、臀鰭軟条は8~9の種が多いです。地味な色彩のものが多いのですが、紅海にすむAcanthopagrus bifasciatusのように派手な色彩のものも知られています。
ヘダイ亜科の魚は両顎の側部に3列以上の臼歯がある
クロダイ属の含まれるヘダイ亜科の魚は両顎の側部に3列以上の臼歯を有しているのが特徴。マダイ亜科の魚では臼歯は2列あり、キダイ亜科の魚では臼歯はなく円錐歯が1列に並んでいるので見分けられます。
歯の形状は食性と関連づけられることが多く、ヘダイ亜科の魚はその多くが貝やカニなどの甲殻類などを食べ、南アフリカ周辺にすむクロダイ属やヘダイ属の魚によく似たSparodon属の魚は”Musselcracker(イガイ割り)”という英名で呼ばれているほどです。
日本のクロダイは悪食なことでも知られており、イガイ類はもちろんのこと、コーン(トウモロコシ)やスイカ、イソギンチャク、カイコの蛹などを餌にした釣りもあるほどです。
クロダイ Acanthopagrus schlegelii(Bleeker, 1854)
クロダイは日本においては北海道南部以南~九州南岸にかけての沿岸、屋久島に分布し、海外では朝鮮半島、済州島、台湾、中国、ベトナム、南シナ海に生息しており、アジアの大陸棚の魚といえます。
タイプ産地は長崎。食用として重要で刺身や塩焼きなどで美味しい魚で、伊勢湾周辺では「ナベワリダイ」とも呼ばれていました。
これは炊いた鍋をつつきすぎて割ってしまうくらい美味しい魚の意とされます。1978年10月5日に三重県尾鷲で釣れたものは拓寸で69.5センチもありましたが、普通はもっと小さく、全長40cmくらいでも大きいほうといえます。
釣り人に人気があり、関東ではそのまんま「クロダイ」、関西で「チヌ(由来はキチヌのところで解説)」と呼ばれ親しまれています。好奇心旺盛ではありますが、警戒心も非常に強く、なかなか釣れず、そのようなところもクロダイ釣りの人気のひとつ、とされています。
キチヌ Acanthopagrus latus(Houttuyn, 1782)
キチヌの名前の「チヌ」というのはかつて泉州を茅淳(ちぬ、茅の生えた野の意)と呼び、また大阪湾を「茅淳の海」と呼称し、そこに多産したことによりこの名前がついたとされています。
クロダイよりも温暖な海域を好むようで、千葉県および石川県以南~九州南岸に見られ、海外では韓国、台湾、中国、ベトナム、南シナ海に広くいますが、琉球列島には生息していません。
利用方法はクロダイと変わらないですが、汽水域の個体や汚濁の酷いところで釣れたものは刺身は避けたほうがよいでしょう。
「キビレ」とも呼ばれています。タイプ産地はクロダイ同様長崎ですが、記載はクロダイよりも早く、東アジア産のクロダイ属ではじめて記載されたもの。
クロダイとキチヌの見分け方
クロダイとキチヌはよく似ていますが、背鰭棘条部中央下横列鱗数が異なっています。一番上の小鱗を含めてクロダイは6~7と多く、キチヌは4~5と少ないのが特徴です。
数を数える形質は難しいように思いますが、クロダイは細かく、キチヌは荒いという感じがします。なお釣りにおいてもクロダイは繊細でキチヌはそれほど繊細でなく、比較的釣りやすいように思います。
鰭の色彩はキチヌでは腹鰭、臀鰭、尾鰭の下方広域または後端が黄色くなっています。
臀鰭は黄色いだけでなく黒い点が入ることも多いです。尾鰭については、クロダイでもとくに小型の個体では鰭が黄色っぽくなるものがいますが、クロダイの場合尾鰭が黄色っぽいときは尾鰭全体が黄色っぽいので見分けられます。このほか吻がやや尖り細長いのがクロダイ、クロダイよりも若干丸いのがキチヌという見分け方をすることもあります。
ただ魚拓にしてしまうと、この2種を識別するのは難しいです。