しばしば「美談」として語られがちな「魚の放流」。しかし近年、その害の大きさについて注目が集まり始めています。
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「在来種の放流」に「待った」
先日、北海道で「魚の放流」に関する非常に注目すべきルールが策定されました。それは「魚の放流を行う市民団体に対し、放流を行う前に相談することを義務とする」というものです。
北海道ではマス類などの淡水魚を釣ったり、環境教育の資材とすることが非常に盛んで、しばしば釣り団体や市民団体による放流活動が実施されています。今後は放流に際して、事前に道や道立の研究機関に相談することが必要となるそうです。
これまでも、特定の外来魚の放流を禁止するルールは存在しましたが、今回のルールは「在来魚の放流も含む」ものとなっているのが特徴です。
在来種なのになぜダメ?
北海道に限らず、資源量増加などを目的とした魚の稚魚の放流は各地で実施されています。どちらかというと「環境を守る」ために行われているイメージがありますが、なぜ「相談が必要」になるのでしょうか。
実は、河川への魚の放流は、仮にそれが在来魚であろうとも負の影響が大きく、あまり勧められる行為ではないということがわかってきたのです。
もし放流が行われると、一時的に生息密度が高くなるものの、その環境が育むことができる資源量を超えてしまうことから餌の奪い合いや共食いなどが発生し、結果としてもとよりも資源量が減ってしまう、ときには絶滅してしまう可能性があるということもあるのだそうです。
「放流」はハイリスクローリターン
上記の点以外にも、放流が環境に悪影響を及ぼす理由があります。それは「遺伝子汚染」です。
河川の魚たちは、閉鎖的な環境の中で独自の進化・適応を行ってきたものがあり、河川ごとに固有の遺伝情報を持った個体群があります。しかし、放流によってある個体群が別の河川に移入されてしまうと、もともといた個体群と交雑し、全く別の遺伝子情報を持った個体群が生まれてしまいます。
生き物たちは「遺伝的な多様性」によってちょっとずつ形態を変化させ、大量絶滅などの非常事態に備えていると言われています。放流はこの多様性を容易に破壊し、絶滅のリスクを高めてしまう行為といえます。
いずれにしても「自然のため」を思って行う行為のはずの「放流」は、結果として全く裏目に出てしまう可能性が高いのです。今回の道のルール策定は専門家から好意的に注目されており、他の自治体も追随していくべきだと考えられています。
<脇本 哲朗/サカナ研究所>