苦みを楽しむ食材と聞いて思い浮かぶものは色々ありますが「魚の内臓」もその一つと言えるでしょう。
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アユの内臓はなぜ美味い?
我が国には、イカの塩辛やカツオの酒盗といったような「魚介類の塩蔵製品」が数多くありますが、その中でもカルト的な人気を誇るのが「うるか」。
うるかはアユの内臓を塩漬けして発酵させたもので、強い苦みと旨味があり、またアユ独特のキュウリのような清涼感ある香りを持ちます。
日本酒のあてにするとそれこそ何合あっても足りないほどで「究極の酒肴」と呼ぶ人も居ます。また実はご飯のおかずにもよく、卵巣ごと漬けた「子うるか」をご飯に乗せ、アユで採った出汁をかけたものはまさに得も言われぬ味わいです。
うるかでなくても、塩焼きにしたアユで一番美味しいのは内臓だ、という人は少なくありません。ほろ苦さと爽やかな香り、そして強い旨味が白身の焼き魚に良いアクセントをもたらしてくれるのです。
サンマの内臓はなぜ美味い?
アユ同様に「内臓の苦みが美味しい」とされる魚は海にもいます。その代表格はやはりサンマでしょう。
サンマは古くから「ワタを楽しむ魚」と言われており、塩焼きを食べるとき真っ先に箸が伸びるのはハラワタだ、という方も少なくないでしょう。サンマの内臓はレバーのようなほろ苦さと内臓脂肪の甘みが合わさったとてもゴージャスな味わいで、1匹分でお酒が何杯も飲めてしまいます。
ただ、最近ではサンマの漁法が変化したことで漁獲時に鱗を大量に飲み込んでしまい、せっかくのハラワタが鱗まみれでジャリジャリ……ということも多くなっています。そもそもサンマ自体水揚げが激減しており、その内臓を食べる機会も今後は殆どなくなってしまうかもしれません。
楽しむべきではない苦味も…
さて、これらの魚のように「内臓が苦くて美味しい」ものはほかにもいくつもあるのですが、中にはほろ苦くとも「口にしてはいけない」内臓があります。それは「コイ・フナの内臓」です。
コイやフナは内臓が美味しく、鯉こくやうま煮など内臓ごと調理する調理法がたくさんありますが、その調理の際に気をつけなければいけないのが「苦玉を潰さない」ということ。苦玉とは胆嚢のことで、これを傷つけてしまうと中に詰まった胆汁が全体に広がってしまい、すべてが苦くて食べられなくなってしまうと言われています。
実際のところは全体が苦くなってしまうほどに強烈な苦みではありませんが、しかしこれらの魚の胆汁には5α-キプリノール硫酸エステルという毒が含まれており、摂取すると胃腸障害のほか肝機能障害、腎不全などの中毒を引き起こすリスクがあります。
コイ科魚の胆嚢はいずれも苦く、小魚などでは気にせず食べられて「ほろ苦くて美味しい」と評価されてもいますが、あまり大量に摂取するときは面倒でも内臓をきっちり除去したほうが無難かもしれません。
<脇本 哲朗/サカナ研究所>