琵琶湖の伝統漁「えり」が1000年も続いてきた理由 乱獲を防ぐシステムが肝?

琵琶湖の伝統漁「えり」が1000年も続いてきた理由 乱獲を防ぐシステムが肝?

日本で最も内水面漁業が盛んな水域である琵琶湖。中でも「えり」での漁は1000年以上の歴史を持っています。

(アイキャッチ画像提供:PhotoAC)

アバター画像 TSURINEWS編集部

サカナ研究所 その他

世界農業遺産「琵琶湖システム」

日本最大の湖・琵琶湖。東京23区よりも広いこの湖は400万年前から存在し、40万年前からは現在と同じ場所に存在するという、世界的に見てもユニークな湖のひとつです。

しかし、この湖がユニークなのは地学的な面だけではなく、近年はむしろ人文学的な側面において注目されることのほうが多くなっているかもしれません。というのも一昨年、「琵琶湖システム」が世界農業遺産に認定されたからです。

琵琶湖の伝統漁「えり」が1000年も続いてきた理由 乱獲を防ぐシステムが肝?琵琶湖(提供:PhotoAC)

琵琶湖システムとは、琵琶湖沿岸地域に残る、琵琶湖と密接に関連した農林水産業のことです。琵琶湖では1000年以上も昔から、環境を維持しながら農業や漁業を営むシステムが構築されており、それが後世に残すべきものとして評価されたのです。

伝統の定置網漁「えり」

そんな琵琶湖システムを構築する要素のひとつに「えり」があります。えりとは琵琶湖で行われている漁のひとつで、小型の定置網漁です。湖岸から沖合に向かってT字型に網が張られ、回遊してきた魚たちが網に沿って泳ぎ、一番奥の袋網に入ったものを水揚げします。

琵琶湖の伝統漁「えり」が1000年も続いてきた理由 乱獲を防ぐシステムが肝?えり(提供:PhotoAC)
 

えりは冬から初夏にかけて実施される漁で、11月頃に設置され、秋のアユの産卵期前には網がたたまれます。メインの漁獲魚種は春に捕れるアユの稚魚「氷魚」やアユ(コアユ)ですが、それ以外にもフナやナマズを漁獲することもあります。

琵琶湖全体で40ほどのえりが仕掛けられており、一部のえりでは漁業見学や漁体験も実施されています。

1000年も続けられたワケ

この「えり」での漁が特筆すべきなのは、すくなくとも1000年前からほとんど同じ形式で続けられているという事実です。平安時代中期の文献ですでに「はるごとにえりさす(春になるたびにえりを設置する)」という記述が確認されており、当時から季節漁としてえりが行われてきたことがわかります。

琵琶湖は大きいとはいえ湖であり、資源量には限りがあります。京都という都を近隣に抱え、食料需要を満たすために沢山の魚を採る必要もあったことを考えると、1000年も同じ漁が続けられていることは驚きです。

琵琶湖の伝統漁「えり」が1000年も続いてきた理由 乱獲を防ぐシステムが肝?えりで漁獲されたアユ(提供:PhotoAC)

筆者は先日、えり漁の見学をさせてもらう機会があったのですが、その際に思ったのは「これが琵琶湖にとってちょうどいい規模なんだ」ということでした。えりの網のサイズは大きく見えますが海のそれと比べると遥かに小さく、網の操作も人力で行えるほど小さいです。

また網を上げるのは小舟を繰りながら行うので、少しでも風波が立ってしまうと難しくなります。それゆえに出漁できないことも多く、これが結果的に乱獲を防ぐことになっているとも言われています。

網の素材はかつての竹からFRPなどの素材に変わっていますが、「持続可能な漁であり続ける」という根本的な部分は変わらなかったために、えりでの漁はこほどまでに長い歴史を紡ぐことができているのです。

<脇本 哲朗/サカナ研究所>