一般的に魚の可食部といえば筋肉、ですが、魚を愛する我が国には、筋肉よりも内臓の方が価値をもつようなユニークなものも存在します。
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アンコウの価格は肝が決める
関東を代表する「冬の魚」のひとつ・アンコウ。一般的に高級魚は生食されることが多いなか、このアンコウは生食されることはほぼなく、基本的には鍋や汁物などに加工されることが多いちょっと変わった存在です。
アンコウが他の魚と違っているのはそれだけではありません。一般的に、魚たちはメインの可食部である身(筋肉)がどれだけ取れ、どれだけ美味しいかによって価値が決まります。しかしアンコウの身は、俗に「七つ道具」と呼ばれる食用部位のひとつでしかなく、これが価値を決めるということはありません。
アンコウの価値を決めるのは、ずばり肝(肝臓)の大きさ。アンコウの肝臓は大きく肥大し、その味の濃厚さから「海のフォアグラ」とも呼ばれて珍重されます。アンコウを販売するときは腹部を上にし、ときには腹を割いて「どれだけ大きな肝が入っているか」をアピールされます。
卵のある無しで価格が変わる魚
アンコウのほかにも「身よりも内臓が価値を左右する魚」はいます。わかりやすいのはサケ(シロザケ)。
サケは身よりもイクラの原料となる卵巣が遥かに重要視され、卵をもつメスと持たないオスとの間には数倍の価格差がつきます。
同様のものにニシンがあります。ニシンの卵巣を塩漬けにした数の子は今や価格が高騰し「黄色いダイヤ」と呼ばれることもあります。それゆえにニシンもメスのほうがオスより遥かに高くなります。
その他、ゴッコと呼ばれるホテイウオも、それで作る鍋に卵が入るか入らないかで価格が大きく変わってしまう魚です。日本人は魚卵がとくに好きな民族なようで、こういう魚の例は少なくありません。
身よりも「腸」が大事な魚
さて、この手の魚でもっともユニークだと言えるのは、おそらくマンボウでしょう。マンボウのパーツで一番価値があると言われるのは肝ですが、ついで人気があるのは身ではなく「腸」なのです。
マンボウの身は非常に水分が多く、調理しても味が薄くて水っぽいためそこまで美味しくはありません。一方で腸は歯ごたえが強く、味もイカのような濃厚さがあり、干物などで人気の食材です。
今でも漁の際にマンボウがかかると、その巨大さゆえに身までは持ち帰ることができないため、腹を切り開いて肝と腸だけを取り出し、持ち帰るということがあるそうです。
<脇本 哲朗/サカナ研究所>