誰でも知っているけど親しまれてはおらず、むしろ嫌われ気味の海の生き物「フジツボ」。しかし実は「超高級食材」でもあります。
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青森で「フジツボ」の養殖に大きな技術革新
青森県東部、太平洋沿岸地域の南端にある階上町。ここに所在する青森県栽培漁業振興協会は先月末、フジツボの一種「ミネフジツボ」の実用レベルでの種苗生産技術開発に成功した、と発表しました。
同会では2013年度から、10種類の植物プランクトンの中でどれがミネフジツボの成育に適しているかを研究。2022度末までに、「タラシオシラ」という珪藻類の一種が餌として最も有効だということが分かったそうです。
これにより種苗を安定的に成長させることが可能になり、栽培しやすい形状に育てることができるようになるとのことです。ミネフジツボの、実用レベルの種苗生産に成功したのは全国で初めてのことだといいます。
いったいなぜフジツボを?
フジツボと言えばご存じの通り、海辺の岩に張り付いているあの小さな粒上の生き物です。一昔前なら「フジツボですりむいたら、傷の中にフジツボが繁殖した」という都市伝説でもおなじみの存在でした。
そんなフジツボの「養殖研究」が行われていると聞くと、なぜなのかと不思議に思う人もいるかもしれません。実は、養殖の研究が行われている「ミネフジツボ」は、一般的なフジツボとは全く異なるものです。
一番の特徴はその巨大さ。殻の直径5cm、高さに至っては8cmに達することもある大型種で、日本に生息するフジツボの中では最大種です。その大きさから青森県では古くから食用にされており、近年の需要増により資源量の減少がみられていました。
そのため、陸奥湾などでミネフジツボの養殖がおこなわれてきました。これまではカキなどと同じように「採取した種苗」を用いて養殖していたのですが、仮に養殖種苗の安定生産が可能となれば生産量の大きな向上につながるため、上記の研究が行われてきたのです。
フジツボはどんな味か
我が国ではそれほどポピュラーとは言えない食材であるフジツボ。しかし上記の青森のミネフジツボをはじめ、西日本の各地でも大型のフジツボを食用にする地域は少なくありません。さらには海外でも、スペインやポルトガルなどでは人気の食材となっています。
フジツボは貝の仲間に見えますが、実はカニやエビと同じ甲殻類。そのためエビのような風味と甘みのあるエキスを持っており、酒蒸しなどにするととても美味しく食べることができます。
残念なのはその歩留まりの悪さ。殻が大きくて厚みがあり、可食部である筋肉は全体の10分の1にも満たないといわれています。ミネフジツボの場合はそもそもそれなりの価格で売られているため、可食部のみでキロ単価を計算すると数万円以上となってしまうかもしれません。隠れた超高級食材であるといえるでしょう。
<脇本 哲朗/サカナ研究所>