その形状や特徴的な部位から「刃物」に例えられる魚たちがいます。身近なものから連想クイズ的なものまで、いくつか挙げてみました。
(アイキャッチ画像提供:PhotoAC)
「外科医の魚」
海外で「外科医の魚」と呼ばれている魚がいるのをご存じでしょうか。この魚の標準和名は「ニザダイ」ですが、サンノジという名前のほうが通りが良いかもしれません。
ニザダイは尾びれの付け根に3つ~4つの黒い突起を持っているのですが、これが固くとがっています。その鋭さは、不用意に魚体をつかもうとして、この突起で手を叩かれると、容易に切れて出血してしまうほど。その切れ味の良さを「外科医のメス」に例えたのです。
「ナイフ」や「サーベル」
このニザダイ以外にも「刃物」に例えられる魚は少なくありません。
有名なのはタチウオでしょう。細長く銀色に耀くその体躯は、まさに太刀そのもの。立ち泳ぎするから立魚という説もありますが、一般的には「太刀魚」という漢字があてられることが多いです。サーベルがなまったと思われる「サワベル」という地方名も存在します。
また海外にはナイフフィッシュという魚もいます。タチウオのように刃物の輝きを持つわけではありませんが、尻びれと体のシルエットがナイフのように見えることからこう名付けられました。
似たような由来のものにカミソリウオがありますが、こちらも体全体のシルエットが柄つきのカミソリに似ているからこう呼ばれています。
「バリカン魚」
さて、そんな刃物魚の中で「バリカン魚」と呼ばれるものがいるのをご存じでしょうか。彼らは以前からこのように呼ばれているのではなく、最近になって主に漁師からこのように呼ばれるようになったものです。
その魚はクロダイ。よく知られたタイの一種で、もちろん見た目もシルエットもバリカンには全く似ていません。彼らがなぜこのような名前で呼ばれるのか、それはその厄介な食性に由来します。
雑食である彼らは、動物性から植物性のものまで幅広い種類の餌を食べます。そして近年、彼らが「養殖のノリ」を好んで食べるシーンが増えているのです。クロダイたちは漁師がせっかく生やしたノリを、まるでバリカンで刈ったかのようにきれいに食べていってしまうことから恐れられており、それがこのような名前で呼ばれる理由です。
近年、温暖化や個体数の増加に伴ってクロダイによるノリ養殖の被害は大きくなっており、害魚として無視できない存在になりつつあります。地域によっては駆除の必要も叫ばれているほどで、釣魚の王者として知る人からは想像できない「嫌われる側面」もある魚なのです。
<脇本 哲朗/サカナ研究所>